103話
オレの目の前には、クライネ師匠とジーク師匠が立っている。
死ぬことはない特殊な結界が張られていて、死ぬほどの大きなダメージを受けたら結界の外に出される、なんて、まるでゲームの決闘システムみたいです。
死ぬことはないのだから、安心して全力でかかってこい、と言われているようだ。
でも、痛いんだろうな……。
この世界で生きていくには、『強さ』が必要なんだと思う。
なんせ、町の外に出れば魔物が襲ってくるのだから。
すると、安全な場所とか、食料など限られたリソースを巡って争いが起きるわけだ。
単純な腕っぷしだけではなく、財力だったり、権力だったりと、その時々で必要な『強さ』は違うけど、何かしらの『強さ』がなければ、確実にドロップアウトしてしまうのだ。
現代日本ならば、ドロップアウトしても救済措置は少なからずあるし、多分生きていくだけなら、それなりに可能だろう。
しかしこの世界は、ドロップアウト=死、みたいなところがある。
死なないでいられるのは、よほど幸運でないとムリだろうと思われる。
特に、オレは異邦人だ。
なにもしないで、安穏としていられるとは思えない。
故に、オレは『強さ』を求める。
財力でも権力でも良いけど、スキルとかステータス、魔法などがあるので、わかりやすく目の前の障害を吹き飛ばす、という手段を手に入れようと思ったのだ。
だから、クライネ師匠とジーク師匠が教導してくれるという提案は、渡りに舟だったと思うのだが……今は少し後悔している。
お二人が組むと、手も足もでない!
先日、クライネ師匠と成り行きで戦った。
オレたち四人と、だ。
そのときは、辛うじて勝利だった。
ただ、後から聞けば、クライネ師匠はオレたちを生け捕りしようと、手加減していたようなので、オレはその隙を衝いた形になったわけだ。
さて、では今はどうか?
クライネ師匠とジーク師匠に対して、オレとディーネ、ジュリア、ヴィヴィの四人なので、人数的には倍だ。
戦闘において、数が多い方が優位に進むのは当然なことだ。
簡単に勝てるとは思えないが、善処はできるはず。
キチンと各々の役目を果たせば──
「甘いぞ」
ドォン! ドォン!
ジーク師匠の放った魔法が、ジュリアに着弾。
間、髪容れずに、オレとディーネにも魔法が放たれる。
それほど強くない下級の魔法……恐らく『マギナバレット』と『ファイアバレット』と思われる。
だからと言って、直撃は避けたいので、オレは【結界術】で盾を作り、近くにいたディーネごと防御する。
ジュリアも持っている盾で、防げるだろう。
ジーク師匠は下級魔法を連発する。
外れた魔法がオレたちの足元に着弾し、砂煙を上げた。
視界が塞がれるのは困るので、【風魔法】で砂煙を散らす。
ガキィン!
クライネ師匠がジュリアに攻撃を仕掛けるも、ジュリアは落ち着いて盾で防御している。
どうやら、砂煙に紛れて近付いて来ていたようだ。
と言っても、全く何も見えないほどではなかったので、ジュリアも十分に対処できている。
……作戦ミスかな?
ならば、ジュリアにはクライネ師匠の足止めをしてもらって、その間に、ヴィヴィにジーク師匠を……?
ゾッとした。
ヴィヴィがいない!?
何でだ!?
退場したのか?
いつの間に?
「考えている暇なぞない」
ジーク師匠の頭上には、いくつもの下級魔法が待機していた。
それが一斉に放たれる。
慌てて【結界術】を強化。
視界が魔法で埋まる。
「守ってばかりでは、勝てん」
脇腹に衝撃が走る。
クライネ師匠の剣撃だと気付いたのは、吹き飛ばされてからだった。
あれ?
【結界術】は?
っていうか、ジュリアはどうした?
つか、クライネ師匠の持っているのは木剣のはずだが、なんであんな衝撃があるんだ?
いや、クライネ師匠。
なんで、そんな突きの構えをしているのですか?
再びの衝撃。
そして、オレの意識はなくなった。
「もっと即応できるようにならなければならん。
特に、ラムダ!
漠然と守りを固めているだけでは、いつまでも勝てんのじゃぞ!」
クライネ師匠のお説教が続く。
反省会です。
何がなにやら、いつの間にか終わってました。
手も足も出ずに、全滅だった。
どこが悪かったかっていうと、全て悪かった。
「ふむ。いきなりの実戦方式は、無謀じゃったか……。
まぁ、現時点での実力が知れて良かった、とも言えるが」
ジーク師匠はしみじみと頷いている。
なんだかなぁ……。
もうちょっと、うまくできると思っていたんだけど……。
スゴいショックです。
初手で、ジーク師匠の魔法にオレたちが気を取られているうちに、クライネ師匠がヴィヴィを速攻で倒していた。
その事に気付いてオレが動揺しているところ、同じように、ジュリアを倒し、残ったオレとディーネを同時に倒した。
僅かな時間で、畳み掛けるように、速攻で仕掛けた両師匠。
それについていけないオレたち。
やれやれ。
こんなので、強くなれるのかな?
クライネ師匠のお説教を正座で聞きながら、コッソリと溜め息を吐いたのだった。




