101話
「……というわけで、奴隷を購入しました。
レベッカとエリーゼです」
「ほぅ」
「基本的には食事の支度をしてもらいます。
師匠も、何か食べたくなったら、彼女たちに言ってください」
「了解した」
「二人も、そういうことだから、よろしくお願いします」
「わかりましたっす」
レベッカとエリーゼに、クライネ師匠のことを簡単に説明して、世話するように言った。
あいかわらず、エリーゼは返事すらしてくれないね……。
いつかは、慣れてくれるよね?
すでに二人には、オレのことは気にしないように言ってある。
納得できなくても、してもらった。
まぁ、話しても良いとは思うけど、面倒だし、二人も環境が変わって大変だと思うので、落ち着いてから改めて考えましょう。
「それで、クライネ師匠?」
二人の奴隷の件は、終わろう。
次だ、次。
師匠の隣でお茶を飲んでいるご老人を、オレは見やる。
それで、師匠はオレの言いたいことがわかったようだ。
「このジジイは、あたしの仲間のジークじゃ。
ラムダには話したけど、あたしをここに放り込んだ元凶じゃよ」
あぁ、転んで腰を痛めて、ここにこれなかったっていう……。
もう大丈夫なのかな?
「ほっほっほ。突然来てしまって、すまんのぅ。
儂は、ジーク=ナハトームじゃ」
真っ白な髭をしごきながら、ご老人──ジークさんは名乗った。
長く伸ばした髪も見事な白髪だし、ゾロリとしたローブを纏って、節のねじれた長い杖は、いかにもな魔法使いの姿だ。
そのお歳のわりに、背も高くて、体格も良く、腰が曲がっていたりしない。
「はじめまして、ラムダと申します。
師匠──クライネさんには、お世話になっています」
「ほっほっほ。気にすることはない。どうせ、このババアの方が、迷惑をかけているのじゃろうぉぉ──髭を引っ張るな!」
「うるさいんじゃ、このクソジジイ!
あたしの話を聞いて、矢も盾もたまらず跳んできたくせに!
しかも、怪我した腰を、やたら高価なポーションでわざわざ治してまで!
歳を考えな、このジジイ!」
「やかましい!」
ギャーギャー騒ぎながら、髭やら耳やらを引っ張り合っているクライネさんとジークさん。
……元気だなぁ。
お二人のケンカというか、罵りあいを聞いていると、なんとなく事情がわかってきた。
どうやら昨晩に、事の顛末をクライネさんがジークさんに報せたそうだ。
一回しか使えないが、どこにいても連絡することのできる魔道具を使ったらしい。
そんなものも、あるんだな……。
その連絡を受けたジークさんは、取る物も取り敢えず駆けつけたのだ──一つしか持ってなかった貴重な薬を使ってまで。
なにせ、過去に封印した魔物が精霊になっていた、など前代未聞で。
そして、その精霊と契約した人間がいる、などと聞いてしまったのだから。
「……というわけで、ここでしばらく厄介になりたいのじゃが、構わないかのぅ?
もちろん、礼はいくらでもしよう」
「当たり前じゃ。そんな当然なこと、胸を張って言うな!」
「何をぅ! 貴様こそ無一文のくせに、何を偉そうにほざいておるんじゃ!」
「なんじゃと!」
「なんじゃ、やるか!?」
また、髭やら髪やらを引っ張り合っているよ……。
どうでも良いけど、二人とも、口が悪いなぁ。
あ、なんか長くなりそうだから、もうレベッカとエリーゼは下がらせてある。
今のうちに、自室の場所とか、台所とかの使い勝手とか、確認してもらおう。案内は、ヴィヴィに任せてありますよ。
ディーネの淹れるお茶は、旨いなぁ……。
お茶を飲みながら、しばらくやりあっているのを眺めていると、体力が尽きたのか、ぜーぜーと荒い息を吐きながら、動きが止まった。
「あ、終わりましたか? 大丈夫です?」
新しく淹れ直したお茶を、二人に差し出した。
「……うむ。すまんのぅ」
「申し訳ない……」
しばし息が整うのを待つ。
結局、どうなりましたか?
「うむ。このババアの報告なんかより、直接ラムダ殿の話を聞きたい。その間、この屋敷に滞在させてもらいたいのじゃが……」
「もちろん、それは構わないです。
と言いますか、元々、このお屋敷はジークさん方のものでしたので、遠慮されることはないかと……」
「いや、もうここは貴殿のものじゃ。
ババア──クライネが許可したのじゃし、儂も異存はない」
「ありがとうございます。
では、お二人も好きなだけ、滞在なさってください」
「では、礼というわけではないが、このババアと同じように、儂も魔法を伝授したい」
「それは……願ってもないことですが、よろしいのでしょうか?」
「もちろんじゃ。儂としても、儂の得た知識というものを、後世に残さねばならぬからな」
おお! それは本当に嬉しいな。
オレは魔法の知識とか、さっぱりわからないし。
それなのに、使えてしまっているのだから、チートスキルって怖いね。
ジークさんはオレに話を聞きたい、ということだけど、オレから話せることなんて、ほとんどない。
お礼というわけではないが、しっかりとおもてなしをしたいと思います。




