第五章:魂の最深部が重なる場所(ゴースト・キス)
ハルトが、さらに一歩、私の領域へと踏み込んできた。
アバターの視界が完全に重なり合い、彼の灰色の髪と、私の白いドレスの光が混ざり合って、視界が真っ白な光で満たされる。
システム的には、ただのポリゴンの貫通だ。バグのような、意味のない画面の乱れ。
でも、その光の渦の中心で、私はかつて現実の誰といるときよりも、絶対的な「近さ」を感じていた。
「ハルト……目を閉じて」
私は囁いた。私の声が、彼の耳元に届くように。
そして、私も現実の部屋で、静かに目を閉じた。
暗闇が訪れる。
雨の音も、現実のミスの自己嫌悪も、狭いアパートの冷気も、すべてが急速に遠ざかり、消えていく。
物理的な唇の感覚はない。肌の柔らかさも、吐息の熱さもない。
なのに、どうしてこんなに苦しいほどに、胸の奥が温かいのだろう。
お互いの孤独を全部曝け出して、傷だらけの心のままで向き合った。
アバターという衣服さえも通り抜けて、私の魂の、いちばん深い、いちばん柔らかい核心の部分が、ハルトの魂の最深部と、ピタリと重なり合っている。
これこそが、本当のKISSだ。
肉体という強固な檻に邪魔されることなく、心と心が、その純粋なカタチのまま融解し、一つに溶け合うような奇跡。現実のどんな温もりよりも、私の心を限界まで満たしてくれる、本当の心の温もり。
「ハルト……大好きだよ」
私の口から溢れたのは、現実の私がずっと言えずにいた、本当の、本当の言葉だった。
「僕もだよ、コハク。君を愛してる」
ハルトの声が、私の魂に直接響き、傷ついた心を優しく包み込んでいく。
私たちは、そのカタチのない抱擁の中で、静かに、深く、お互いの存在を確かめ合っていた。物理的な距離なんて、私たちの前にはもう、何の壁にもならなかった。




