順番待ち
ネロは病院に行く前にスレイブ寮の電話を使って学校に連絡することにした。事情を説明し、予約がないから遅刻か欠席になると伝えたところすぐに了承された。
どうやらこういう休み連絡はよくあることらしい。もし欠席になればその日の配布物を誰かが届けてくれるようだ。一日病院にいるかもしれないだけにありがたい話だ。
連絡が終わればすぐに病院へ向かう。熱でうなされているクロを抱え、キダルを先頭に寮から歩くこと15分。目的の病院に到着した。
想像よりもずっと大きな建物である。スレイブ寮とそう変わらない大きさの建物がキダルの言う病院である。セントラル病院と大きく看板に記されていた。
「受付は1階、魔物外来は3階にある。……早くクロ良くなるといいね」
そう言ってキダルは学校へと駆け出した。懐中時計を見る限り今から走っても遅刻は確定する時間である。下手すると最初の授業に間に合わない。
それでも病院へと連れて行ってくれたキダルは優しい先輩である。キダルに感謝してネロたちはセントラル病院へ入った。
「……ヴァンは別に病院へ行っても良かったんだよ?」
「いいえ、そうはいきません。私だってクロが心配なんですから」
律儀な男である。まあひとりで何かあったらどうしようと思っていたからありがたくついてきてもらうことにする。
受付を済ませキダルの言う通り3階へと向かう。フロアガイドを駆使して目的の場所へ向かう。魔物外来。魔物が病気になれば来る診察室のようだ。しんどそうな魔物を連れた魔物使いで混雑していた。
「予約外で来られたんですね。申し訳ありませんがまずご予約の方を順番にお呼びいたしますので、しばらくお待ちいただくことになります」
「それで構わない。……ちなみにどれだけ待てば?」
「……そうですね、半日はかかるかと」
聞いていた通りである。まあこればかりは仕方ない話だ。待てと言うので待合室の椅子に座って待つことにした。
少し楽になったのかクロの表情はややはっきりしたものになっている。症状が重ければ早くしてほしくなるが、この分なら大丈夫だろう。それに半日かからない可能性もある。
……しかし、魔物というのは多種多様なんだな。
周囲を見渡しネロはぼんやりとそう思った。あそこで順番待ちをしているのはツムジカゼか。風属性の魔物だ。その向こうにいるのはヴァンダリアという風属性の魔物。ネロに一番近いところで座っている人が抱えているのはドリヤードというこれまた風属性の魔物。……あれ? 気のせいかな。風属性の魔物が多い?
『……ヴァン、これ……どう思う?』
『……確かに半数以上が風属性の魔物ですね。風属性の魔物が病気になりやすいなんて話は聞いたことがありません。たまたまだと良いんですがね』
やはり気のせいではなく風属性の魔物が多いようだ。クロの診察をしてもらっている間に事情を医者に聞いてみるのもいいかもしれない。……診察までまだまだかかるだろうしどう聞くか考えておくか。ネロはクロの頭を撫でながら医者に尋ねる話をまとめ始めた。
時間が経って何組か呼ばれて診察室へ消える。ネロが来てから数人が新しくやってきては診察室へ呼ばれていった。あれは多分予約していた人だ。予約の人をまず順番に呼ぶと言っていたから、ネロが呼ばれるのは多分もっと後だ。
……待っているのが退屈なのはどうでもいい。それよりも問題はクロの体温がまた上がり始めたことだ。じっとしているだけだが辛い思いをさせているかもしれない。気休めでしかないが、ネロは優しく頭を撫で続けた。
そして2時間が経過した。相変わらずネロは呼ばれることなく待合室の椅子にもたれていた。
「……あんたも予約外かい?」
不意に声が聞こえた。顔を向けるとドリヤードを抱えた男がこちらを向いていた。多分話しかけてきたのはこの人だ。
「まあ、そうだな」
「だよな! いやぁ、こんなに待つとは思わなくてさ」
男はにこやかに話しかけてきた。多分暇なのだろう。待っている間にやれることはそれほどない。暇つぶしにもなればと話しかけてきたのだ。まあ、ヴァンも何も言わないし、敵意がある訳じゃない。ネロも暇ではあるため話に応じることにしたのである。
男は帝都第一魔法学校に通っている一年生だという。つまりはネロと同学年だ。それを伝えるとやっぱりなとニヤリと笑ったのである。
「なんとなくそんな気がしたんだ。いやぁまさかこんなところで第二学校の同学年と会えるなんてな。ただの食あたりだと思っても病院にも来てみるもんだぜ」
「食あたり?」
「昨日かな? 寮の近所で出店を見つけてさ。魔物も食べられるクッキーなんて言ってるから買ってみたんだ」
ネロは視線をドリヤードに移す。顔色が悪くかなりしんどそうだ。恐らく原因はそのクッキーで間違いない。まあ魔物も食べられると言われれば買って魔物にあげるのも分からなくはない。




