何もしないのは嫌でしょう?
「……諦めるってこと?」
「そうとは言っていません。何もせずにただ死ぬのは嫌でしょう?」
さらりとした口調だが内容は重い。だれだって何もせずただ死にたくはないだろう。
「私のこれまでを振り返って、厄介だった敵には共通点があります。敵わないと知った上でなお、自分の持てる全てを駆使し、ただ私を殺しにくる。よくある話ではありますが、……実に厄介極まりない」
実体験でもあるのだろうか、最後ヴァンは吐き捨てるように言った。その相手は既に死んでいるだろうが、ヴァンにここまで言わせたのなら最後の抵抗として誇らしいのかもしれない。……まあ、死ぬのはごめんだが。
「……ひとつ聞くんだが」
「おや、キダルさん。どうかしましたか?」
「ポイズンスコールはあれほど大きな魔法だったかなと」
「いいえ、本来は手のひら大の小さな魔法です。気付かれることなく相手を毒にすることが目的で攻撃力は大してありませんしね」
「……へ?」
ネロの戸惑いにヴァンはバレたかとおどけてみせた。どうやら騙されたようである。オニキスが怪しく光り、とんでもなく大きい毒の球体が現れた。その見た目だけでやばい攻撃魔法だとネロは思ったが、見せかけだけだったということか。
これはネロの問いに対してのヴァンの答えのひとつである。演出を派手にすることで相手の警戒を誘う。大した威力はなくとも警戒さえしてくれれば相手の行動はある程度制限できるのだ。
「……それじゃあシャドウバインドもとにかくポイズンスコールから逃げさせるためにってこと?」
「ええ、そういうことです。私から意識を逸らしていただかないと背後は決して取れませんから」
結局のところ、ネロがヴァンから意識を逸らした瞬間に全てが終わっていたのだ。相手から目を離さずに戦うことの重要性はこれで理解できた。
……ところで、杖の必要性はどうなったのだろう? ネロが聞きたかったのは、魔力を通せば光り輝く魔晶が使われている杖をわざわざ使う利点はあるのか、ということである。相手の視線を逸らさせることが出来る以外に意味はあるのだろうか。
「視線誘導は理解いただきましたからそれ以外に、ということですね。でしたら魔法の威力や効果が上がれば出来ることも増える。……という単純な答えですが、それではだめなんでしょうか?」
「いや、でもそれなら普通の杖でやっても大して効果は変わらないだろ? わざわざ使うと光る杖を使う意味はあるのか疑問なんだよ」
「なるほど、効果の増大がイマイチ分からなかったのですね。確かに体験せず言葉だけでオニキスのパワーを受け入れるのは難しいと思います。それでは主様、この的に魔法を撃ってみて下さい」
ヴァンは収納魔法からあるものを取り出した。……あれはマジックドールだ。リチャード先生が測定のためにと使っていたものである。……いったいこんなものどこで手に入れたんだ?
「それは秘密です」
「……くすねて、ないよね?」
「さて、測定する魔法のおすすめは、ダークジャベリンですかね。それなら比較もしやすいでしょうから。……ちなみに測定器も同じものがここに」
ヴァンはしれっと話を変え、さらに収納魔法から測定器を取り出した。……もう何も聞くまい。ネロは手始めに普段使う杖を取り出して構えた。せっかく比較するのだから条件は揃えておくべきだろう。
ネロは杖を構え一言、ダークジャベリンと呟いた。杖の先から伸びやかに弧を描き槍はマジックドールに突き刺さった。手応えアリだ。
「ネロ・プリズマン闇属性、スコア458」
前回の測定から日にちはそれほど経っていないが、数字は良くなっている。確か前の記録は420かそこらだったはずだ。明確に成長が感じられたからかネロの口角は少し上がった。
次はオニキスの杖を使う。オニキスは怪しく光り輝き、ダークジャベリンの密度と弾速を上げてみせた。マジックドールに突き刺さったその闇属性の槍は煙を伴っていた。
「ネロ・プリズマン闇属性、スコア717」
……へ? スコア高くないかい? 確かに二度目のダークジャベリンはさらに鋭く伸びやかな弧を描き着弾したのだ。かなり高いスコアがでているだろうと思ったが、想像以上だ。
「当たれば即死させることができるほど壊れた威力だったとしても、魔法の速度が遅ければ防御したり回避したりするのはそれほど難しくありません」
「魔法の速度を上げるのはそれだけで意味があると」
「おまけに威力も上がります。魔法を発動するとバラしても補って余るほどの利点が詰まっている。それにバレてもそれはそれでやりようがあることは主様もご存知でしょう?」
ヴァンはにっこりと笑った。オニキスの杖はただ魔法を使うだけでも効果的で、うまく使えば戦闘の幅は大きく広がる。
この杖を使いこなせれば魔導士として数段格が上がるに違いない。そこまで言うのなら使いこなしてみせようか。ネロはヴァンの笑顔に応えることにしたのである。




