魔石とはまた違う
なるほど、使うとはそういうことか。つまりペンダントに魔力を込めれば設定された魔法が発動し、ギルド長がペンダントの元へやってくるというわけだ。中々便利なアイテムがあるものである。
「ちなみに先ほどの杖も似たようなものですよ」
へぇ、そうなのか。ネロは収納魔法から報酬でもらった杖を取り出す。やはりずしりとした重みが手にかかる。杖の頭には大きな漆黒の宝石があしらわれていた。
「そこに埋め込まれているものには特に魔法が設定されていません」
「……ほう。それじゃあ今から設定するのか?」
「いえ、これはわざとしていないのですよ。そもそも魔石ではありませんし」
「……?」
「これは魔晶というものでして、特定属性の魔力を集中して流し続けると出来上がります」
魔石かと思ったが違うらしい。違いの分からないネロは眉をひそめた。ペンダントと杖を見比べる。2つとも綺麗な宝石にしか見えない。……うーむ、どう見ても一緒に見えるな。違いはあるんだろうか?
「……主様、魔石と魔晶は似ていますが別物ですよ」
ヴァンは苦笑いを浮かべている。思念が読み取られると無知がバレてしまうから恥ずかしい。いい機会だから違いを詳しく教えてもらおう。
「ヴァン、魔石と魔晶? の違いを教えてくれ」
「簡単に言えば透明度です。光を通すなら魔石、遮るなら魔晶となります」
なるほど、確かにこのオニキスというものは光を一切通さない漆黒だ。黒色だからそう見えるだけで透明ではあるのだろうと思っていたが違うようだ。
「ちなみにこちらが闇属性の魔石、モリオンです。手に取って見てみて下さい。ほら、透明でしょう?」
ヴァンは左手の薬指に着けていたリングを外してテーブルに置いた。大事なものなんじゃないかと思いつつ、拾い上げて観察してみる。……なるほど、これは確かに透明な黒い宝石だ。杖の頭についている魔晶とは全然違う。
「やはり実物を見た方が違いが分かりやすいですね」
「そうだな。魔石ってことはこれには魔法が設定してあるんだよね? 何の魔法が設定してあるの?」
「影移動ですね。ほら、主様も以前体験したあの魔法ですよ」
言われてネロは記憶を辿る。影移動というと、……あぁ、ポイズンハザードの時だな。討伐してから魔物使いのところへ移動するのにヴァンが使っていた魔法だ。確かにあの時ヴァンは左手で俺の手首を掴んでいた気がするや。
「ええ、その通りです。……ふふ、これで魔石と魔晶の違いは理解されたかと思います」
「ありがとう。それじゃあ次は魔晶の効果を教えてくれるか? 魔石とは違うんだろう?」
「魔晶の持つ効果は属性魔法の効果や威力の底上げですね。色が濃ければ濃いほどその効果は大きくなります」
言われてネロは杖に視線を落とす。杖の頭の魔晶はネロの瞳を呑み込むかのように濃い黒をしていた。黒ならば属性は闇属性だ。魔石がモリオンなら魔晶は何という名前なのだろう? ヴァンは多分知っているよね?
「もちろんですとも。名前をオニキス、お考えの通り闇属性の魔晶です。主様は綺麗な黒い髪をお待ちですからよくお似合いですよ」
へぇ、とネロは杖をしげしげと見つめた。自分に似合っていると言われれば途端に愛着が湧くから不思議だ。ずしりとした重量感もどこか心地いい。……まったく単純な男である。
「その杖はオニキスってのがついているから重いのかい?」
横からキダルがそんなことを言い出した。少し前から気になっていたのだろう。一旦ヴァンが話し終えるまで待ってくれていたのは恐らく彼の律儀さ故だ。
「いえ、このタイプの杖は全体的に重く作られてます」
「……それは、どうして? ほら、杖って基本片手で使うからさ。重いと扱いが難しいよね?」
「事故を防ぐため……、ですかね」
ヴァンの返答は2人にとって意外なものであった。杖が重いと扱うのが難しい。扱うのが難しいと失敗や事故のもとになる。……だが、この杖は事故を防ぐために重く作られている。残念ながらネロにはさっぱり分からなかった。
「それではちょっと試してみましょうか」
「試す?」
「この杖の使い方を、ですよ。まだ休むには時間が早いですからね」
屋上の修練場は相変わらず人の数が少ない。2人ほど逆側の隅っこで何やら戦闘の練習をしているようだ。逆側だから邪魔にはなるまい。ネロたちは自分たちの用事に集中することにした。
ネロは杖をヴァンに渡す。するとヴァンはいきなり魔晶がある側をネロに向けた。ヴァンは微笑みを浮かべている。杖を向けられ笑みを浮かべられるのは不気味だ。……いったい何のつもりだ?
「……今戦場にいて、主様を敵だと仮定します。私はこのまま魔法を撃つでしょう。……しかしこれだと事故が起きます」
「……なぜ?」
「向きが逆なのですよ。この杖は下側が先になります。故にこうして使うのですよ。……シャドウバインド」
ヴァンは杖の先で地面をコツンと突いた。オニキスはヴァンの手のひらで怪しく輝きを放つ。瞬きしている間にネロはヴァンの影に縛られていた。




