圧倒的……
「……魔法が、切れた?」
「ご名答。そのリングは補助魔法を無効化する魔道具です。さすがに上級や超級クラスの補助魔法は無効化できませんが、大抵の補助魔法は無効化する凄まじい代物ですよ」
ヴァンは聞かれてはいないがリングの詳細を言って聞かせた。補助魔法が使えないのなら攻撃魔法をするまで。ケイはすぐさま攻撃魔法を撃とうとした。
……だが上手くいかない。いつもなら魔力を増強して最高効率で攻撃魔法を撃つというのに。いくら試みても魔力が一切増強しないのだ。
「……もう一度言いましょうか。そのリングは補助魔法を無効化する魔道具。それを着けていては魔力の増強なんてできませんよ。外されるがよろしい」
ヴァンはゆっくり丁寧な発音である。まるで赤子に言って聞かすような口調だ。ケイは苛立ちを隠せずヴァンを睨みつけ、リングを指からもぎ取った。これで魔法が撃てる。魔力が増強され魔法が……、
「撃たせはしませんよ。撃つ前に予備動作が必要な魔法は総じて強力ですからね」
ケイは体を動かすことができない。ヴァンのシャドウバインドで手足が封じられているからだ。あぁ、そうか。あのリングを着けていたからこれはされなかったのか。今縛られているのはリングを自分で取ったからに他ならない。
「……ふむ、圧倒的じゃの。幻獣研究所のチーフとやらをこれほどまでに簡単に無力化させるとは」
「恐縮です」
「せっかく移動してきたが、出番はなかったのぉ。エドワードや、ケイ・ルビラリアを捕らえよ。この件についてしっかり尋問してやるのじゃ」
エドワードは敬礼をしてケイを連れて去っていった。ネロたちももうここには用がない。エドワードについていくかたちで建物を出ることにしたのである。
「……ふぅ、何事もなく外に出られたの。これでそなたたちの調査はひとまずおしまいじゃ。幻獣研究所は帝都に悪影響を及ぼす研究をしておることが判明、研究の責任者を無力化し拘束した。調査の成果としては上々じゃろう。報酬をネロの名前で手配しておくから帰りにギルドへ寄るといい」
調査の成果は上々。この言葉をネロは喜んだ。やったことと言えば研究を見た上で暴れたことであり、どうも調査をした手応えが正直なかったのだ。
嬉しくなったネロはハイタッチをしようと振り返った。外へ出る前に戻したのだろうか。ヴァンの顔や体の色はいつの間にか人間のそれに戻っていた。
もちろんヴァンはにこりと微笑んでハイタッチに応じ、キダルも続いてハイタッチ。こうしてネロは達成感と安堵の混じった微笑みを浮かべたのである。
ニコニコしているネロたちを見てギルド長も笑みを浮かべている。そして何かを思いついたのか懐に手を突っ込み何かを探し始めた。何を出すつもりだ、と様子を見ていると、目的の物を見つけたらしい。3人をじっと見比べてからネロの目の前に拳を差し出した。
「そうじゃの、……そなたにこれを渡しておこう」
「……これは?」
固い感触が手のひらに伝わる。ギルド長から手渡されたのは小さなペンダントである。ネロはなぜこれを自分に手渡されたか分からず戸惑った。
「見ての通りペンダントじゃ。魔石を仕込んだ特別製よ」
「特別製?」
「左様、これを使えばいついかなる時でも私を呼び出すことができる。今回は大した助けにならんかったからの。どうしようもないピンチの時に使うのじゃ。その時は頑張って助けてやろう」
そこまで言われてようやくネロは理解した。このペンダントはエドワードがギルド長を呼ぶのに使った魔道具だ。これを使えば同じようにすぐにギルド長を呼ぶことができる。これが必要になる時が来るかは分からないが、ありがたく受け取っておこう。
ネロが丁寧にペンダントを収納魔法へ仕舞い込むとギルド長は満足したように微笑んで去っていった。残された3人がこれからやることといえば、ギルドに寄って報酬を受け取るくらいだ。誰からと言うわけでもなくギルドに向かって歩き出したのである。
……その様子を物陰からじっと見つめていた男がいた。その男は目に焼き付けるように3人を見た後にゆっくりと幻獣研究所の中へ消えた。昼間だというのに陰気な空気が辺りには漂っていた。
休日の昼間だからかギルドの中はそれなりに賑わっていた。ここでネロはあることに気が付いた。依頼の報告なんてこれまで一度もしたことがない。レオンがするのを見ることすらしていないのだ。これでは報酬金が受け取れない。困ったネロをキダルは不思議そうに見ていた。
「……どうしたの? 早く行くよ?」
「いや、どこへ行けばいいか知らなくって」
「あぁ、報告するのが初めてなのか。それじゃあ教えてあげるよ。ついてきて」
キダルは知っているらしい。ネロはほっと胸を撫で下ろした。
人ごみの間を縫うように進むキダルを追うとカウンターにたどり着いた。ここならネロも知っている。……なんだ手続きをするのはここだったのか。




