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怒りをどこへやればいい?


 変なことを気にするものだ。スザクは神であり、人間でも魔物でもない。魔族だというがそれも間違いだ。ここにおられるのは神だ。それ以外ない。

 彼らは関心を持ってここへやって来たはずだ。だから私の信じる神を見れば私の研究を理解できるに違いない。そう思ったのだ。だが彼らは理解しないばかりか否定ばかりしている。実に腹が立つ。


 思い返せばあの人間も否定ばかりしていた。翼を生やす人間は珍しい。スザクには翼がつきものだ。翼が生えた珍しい人間は依代にはちょうどいい。

 私の考えを理解すれば喜んでその身を差し出すだろう。そう思っていたのにあの人間は否定ばかりしてとてもうるさかったのだ。……まあもう喋ることはないからどうでもいい話ではあるが。


 目の前の男は神の姿を見て涙を流し始めた。あぁ、なんだ。理解できるんじゃないか。この人は正常だ。


「……ようやく、神を理解できたようですね」

「……理解? 黙れよ。お前なんて塵とも理解したくない」


 ……はぁ? 理解していないだと? ならなぜ涙を?

 

 ケイはネロの怒りを一切理解できずにいた。彼女にとって神は全てである。だから神をこの世に存在たらしめるために犠牲となった人間などどうでもよかった。神のためには割り切りが必要だ。そう本気で考えているのだ。




 さて、どうしようか。ため息を漏らしながらエドワードはこの後の展開を考えていた。

 事態がこじれているのは間違いなくヴァンのせいだ。なぜか彼は率先してケイを煽り始めた。あれではケイが怒るのも無理はない。

 詳しくは知らないが、ヴァンはネロと主従関係があるらしい。だから俺はネロに止めてもらおうと思ったのだが、彼は無関心なのか止めもしない。それどころかいつのまにか一緒になってエキサイトし始めた。理由は分からない。ただ彼は怒りの感情に飲み込まれそうになっていた。


 ……調査をするだけだと言ったのに今にも戦いだしそうなほど彼らは血気盛んだ。まあ人間を犠牲にして魔物を呼び起こすなんて帝都に悪影響なのは間違いない。もうネロとヴァンを止めることもない。遅かれ早かれこの研究所は潰れるのだからそれに関してはもうどうだっていい。

 ただ、自分が動くとなると話は変わる。魔導士ギルドの職員である自分が許可もなしに率先して帝都の研究施設を叩くわけにはいかないのだ。


 ……おや? ネロの背中に翼が生えた。翼が生える人間は珍しいな。飛行魔法だったか、あれは確かどこかの田舎の島国特有の魔法だったはずだ。

 ……となると被害者と同郷の可能性があるのか。なるほど、それなら突然の怒りも理解できる。……そしてここまで来たら非常事態と考えていいだろう。


 ネロの怒りの理由を悟ったエドワードは収納魔法から前もって預けられていたあるものを取り出す。非常事態だと思ったらすぐにこれで信号を送れ。それがギルド長からの指示だ。




 ネロは静かに胸を張り自分の背中に魔力をこめた。それだけで飛行魔法は成立する。自慢の赤く縁取られた黒い翼が背中に生えた。ネロもまた帝都では珍しい翼の生える人間。だからこそ彼は狙われたのかもしれない。


 スザクを見て最初に見覚えがあると思ったのは、このまがいものが自分の故郷の住人をベースに擬態したものだからだ。残酷な話だが、もしかすると会ったことのある人かもしれない。

 こいつをどうしたら彼の無念が晴れるのか。ネロにはすぐに結論が出せなかった。歯痒さからかネロの奥歯はギリリときしんだ。


「これ、ネロよ。何をそんなに怒っておる」


 いきなりそんな声がした。空耳ではない。急いで後ろを振り返る。そこにはここにいるはずのない老人の姿があった。その老人は優しい目をしていた。


「……ギルド長⁈ どうして?」

「わしの付き人は皆あるものを持つようにしていての。わしの固有魔法を使えば、それを目印にいつでもその場所へ移動ができるのじゃ。こうでもしないと非常事態に対処しきれんからの」


 ネロはエドワードの姿を探した。彼はキラリと光る何かを持っている。恐らくそれがギルド長の言うあるものなのだろう。ギルドからここまではかなり距離がある。それが一瞬で移動できるのだ。すごい効果の固有魔法があるものである。


「さて、エドワード。手短に何があったか説明をしてくれ」

「かしこまりました。この場所は幻獣研究所の地下、ここで彼らはスザクと呼ばれる幻獣、魔物を研究していたそうです」


 説明を聞きながらギルド長は左目だけにかけた眼鏡をそっと持ち上げた。索敵魔法を使ったのだろう。見る間に表情が険しくなった。


「ポイズンハザードと同じじゃな。しかもあれは元は人間かの?」

「……恐らくそう思われます。またそこにいるネロの同郷の可能性が高いです」

「……なるほど、それは確かに非常事態。むしろもっと早く呼んでくれて構わない案件じゃの」

「……すみません」


 エドワードは小声でそう言って頭を下げた。ギルド長はそれを気にせずネロの方に顔を向けた。


「さて、ネロよ。復讐、……やられたからやり返すのは本来あまり気分のいいものではないのじゃ」


 いきなり何を言い出すかと思えば、そんなことか。ギルド長として俺を止めようとしているのか? だがそうすれば俺のこの怒りはどうすればいい?


「……だから?」

「されど、やられっぱなしもまた気分のいいものではない。やるなら徹底的にじゃ。その復讐、ギルド長も手伝ってやろうぞ」


 そう言ってギルド長は不敵に笑みを浮かべた。


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