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逃れられない


 馬鹿か? という言葉をネロは声に出さずに飲み込んだ。確かにヴァンが幻獣研究所に乗り込むのにネロが同行すれば少なくとも単身で乗り込むことは無くなる。

 だが考えてみてほしい。なぜ単身で乗り込むことを止めようとしているのか。それはひとえに危ないからである。ネロ自身あまり乗り気ではないのはこれが理由だ。さすがに危険すぎる。


「……ヴァン、何を言っているんだ。そんなことだめに決まってるだろ」

「そうだよな、だめに決まってるよな。ほらヴァン、キダルもそう言ってるんだ。それは諦め……」

「行くなら僕も同行しないと」


 今度こそ馬鹿か? と言う所だった。この先輩は何を言い出すのだろう。ネロはうんざりしたように肩をすくめた。幻獣研究所は下級の魔物であるブラックスパローを上級の魔物であるポイズンハザードに擬態させられるような厄介な場所である。

 単身はもちろん危ないが、ネロとキダルが増えたところでそれは変わらない。むしろヴァンが一番強いのだから何の助けにもならない。


 ヴァンとキダルはネロを見つめている。後はネロが同行すると言うだけ。そんな表情だ。そんな顔をしたって行きたくないものは行きたくない。どうしてそんな危ないことをしなければならない。


「……ギルドの調査を待つじゃあダメなのか?」

「それは研究の良し悪しが分かるだけで、主様が狙われた理由の解明にはならないでしょう?」

「それにもし狙われているんなら寮にいたって危ないことには変わりないよ。どうせ向こうからくるんだったらこっちから行っても同じだよ」


 ヴァンとキダルはもっともらしい口調でネロを説き伏せにかかっている。危ないのはあまりにも明らかであり、どう考えてもネロが正しい。だがこの部屋の中において現状は1対2と分が悪い。このままだと数の力で押し切られそうだ。ならばこちらも数の力で対抗しよう。せめてもの抵抗だ。


「そこまで言うならギルドの許可を貰おう」

「……ほう、ギルドの許可ですか」

「許可は出ると思うよ。むしろありがたがれるんじゃないかな」


 ……抵抗のはずだがネロもキダルも特に気にもしていない。どうして? どうしてそう思うんだ?


「ランクの高い魔導士は中々手が空かないからね。二級魔導士なら特に問題ないと許可されるんじゃない?」


 そう言ってキダルは銅色のギルドカードを指でぶら下げた。散々お世話になったギルドカードだが、この時ばかりは恨めしい。そうだ。目の前のこの男は二級魔導士なんだった。

 口に出してしまったものは撤回できない。ネロのなけなしの抵抗はただ時間を引き延ばすだけになりそうだ。




 次の日朝一番にネロたちは魔導士ギルドに来ていた。目的はもちろん調査の許可取りだ。事務員にギルド長を呼んでもらう。事務員は困惑した表情を浮かべたがすぐに行動に移った。……数分が経ち、ネロたちは応接間に通された。まさかこんなにも早く2度目が来るとは。


 静かなノックの音と共にギルド長がやって来た。用件は簡潔だが事務員づてで伝えられている。故にギルド長の表情は渋いものであった。


「……幻獣研究所の調査をそなたたちが行いたいと名乗り出た、と聞いておる。……誠かの?」

「ええ、左様でございます」

「……本気か?」

「ええ、本気ですとも」


 ギルド長は懐から端末を取り出した。それをキダルの顔の前に持っていき、そして操作を始めた。恐らくあの端末は魔導士を管理しているものだ。前に応接間にいなかったこの魔導士は誰なのか調べているのだろう。


「……ふむ、そなた二級魔導士のキダル・チャリオットかの?」

「ええ、そうです」


 ギルド長はじっとキダルを見つめた。見定めるようなその視線は約1分続いた。……やがてギルド長は首を横に振った。あぁ、よかった。許可は下りなかった。ネロはこっそりと安堵したのである。


「残念じゃが、許可はやれんな」

「……どうしてです?」

「このギルドでは4人編成のパーティを推奨しておる。そなたたちはまずそれに足りておらん。そして恐らくこの調査の難易度を考えるに、二級魔導士1人ではまだ危険じゃ。許可を出すにはせめてあと1人、二級以上の魔導士が必要じゃの」


 キダルは分かりやすく肩を落とした。キダルとヴァンにとっては残念だが実に妥当な判断である。キダルの言うように高ランクの魔導士は中々手が空かない。今から助っ人を探しても見つからないだろう。ネロたちだけで調査するのは諦める。それが無難な判断だ。


「……そこでじゃ」

「……?」

「わしの付き人を1人付き添わせよう。それなら許可は出せる」

「…………はぁ⁉︎」


 ネロは思わずそう叫んでいた。扉付近から同じような叫びが聞こえたのはきっと気のせいじゃない。恐らく付き人というのはあの人なんだろう。いや、そんなことはどうでもいい。許可が下りただと?

 ネロはひとり焦り始めた。この流れはマズイ。なにせネロはもう言ってしまっている。ギルドの許可が下りたならば、もう反論の余地はない。

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