どうしてが拭えない
ネロはサイコロステーキを、ヴァンはマルゲリータをそれぞれ注文した。会計はキダルのギルドカードである。二級魔導士である彼のギルドカードなら豪華な食事も無料である。改めて見ても破格だ。
どうせならこれも飲みなよ、とキダルは2人に炭酸ジュースを持ってきた。もちろんありがたくいただく。キダルはチャーシューメンを注文したようだ。醤油の香りが食欲をそそった。
「いやぁ、今日はなんだか豪華な夕食になったな」
「そりゃ祝賀会だからね。豪華な食事にしないと。……それに奢りとか偉そうなこと言ってるけど、これ全部無料だしね。だから僕に遠慮することなくお腹いっぱい食べるといいよ」
そう言ってキダルは笑った。無料だからできるんだよ、という謙遜が含まれているんだろう。しかしネロが思うに仮に会計が無料にならなくても、キダルはこういう祝賀会は開いてくれそうな気がする。キダルはそういう人間だ。優しい同室の先輩である。
「……そういえば、四級魔導士のギルドカードって何か特典とかあったりするのか?」
「あるはずだよ。……ええと、確か500Gまで無料だったかな?」
思ったよりも破格の特典である。さすがに会計全部無料には負けるが、500Gまで無料は大きい。ネロもヴァンも四級魔導士になったのだからこれで大分節約ができそうである。
「……随分と羽振りがいいんですね。この建物はどうやって成立しているんですか?」
「学校全体で運営してるらしいから詳しくは僕も知らないんだけど、大体は国からの補助金で成り立ってるらしいよ」
「ほう、……補助金ですか」
「二級以上の魔導士に補助金が出るらしい。だからこの学校はそこをゴールにして手厚くサポートをしてる。厳密に言えば違うのかもしれないけど、大枠は合ってるんじゃないかな?」
ヴァンはなるほどと何度か頷いた。ネロも真似をして頷いてみせるが正直なところあんまり自信はない。多分だが学校としては早く二級以上の魔導士になってほしいから、食堂が無料だったりとサポートが色々とある。……このくらいの理解できっと大丈夫なはずだ。
「ところで、いきなり四級魔導士に昇格したってことはそれなりにデカい貢献がいると思うんだけど、……何をしたの?」
不意にキダルがそんなことを聞いてきた。もちろんそれはポイズンハザードの討伐で間違いないだろう。キダルに隠す意味はないから素直にそれで答えた。
「……ポイズンハザードって帝都の上空を飛んでた奴だよね? 僕は討伐隊に参加する前に討伐されちゃったからあんまり知らないんだよね」
「あぁ、それは俺たちもだな」
「……? 討伐隊が討伐したんじゃないの?」
キダルは眉をひそめた。聞いてる話と違うから困惑している。大方そんなところだろう。鏡を見なければ分からないが、多分俺も同じような表情をしていると思う。
「……キダルはどう聞いたんだ?」
「討伐隊への参加申請をしたらこの魔物はつい先ほど討伐されましたって聞かされたんだ。だから討伐隊がもう討伐したんだと思っててさ」
なるほど、その言い方なら討伐隊が討伐したと思っても無理はない。それに討伐隊ではない魔導士が討伐したという話は必ずしもする必要はない。討伐隊が作られ、無事にその魔物は討伐された。その事実があればそれで充分なのだから。
「実は俺たちは討伐隊のサポートをしようとギルドを出た時にポイズンハザードに襲われたんだよ」
「へぇ? ずっと上空にいたのにその時急に降りてきたんだ。……何か変だな」
キダルは何か引っかかったのか難しい表情で何かを考え始めた。ネロとしては不服である。まるで自分が嘘を言ってるかのようだからだ。
「……別に嘘は言ってないぞ」
「あ、それは知ってる。ネロが襲われたのも本当で、その流れで討伐したのも本当だろう。それは別にどこにも問題はないんだ。……ただ」
「ただ?」
「僕の知る限り、あの魔物はずうぅっと上空にいたんだよ。それが急に降りてくるなんて何か理由があるはずなんだ。理由もなしに襲ってきたのなら、ネロ以外に襲われた人がいるはず。けどそれは聞いてないから多分いなくて、となるとネロたちを襲う理由が何かあったってことになる」
それは考えもしなかったことだった。キダルはネロたちが襲われた理由を考えているのである。確かにあの時は襲われた理由なんて微塵も考えなかった。突然襲ってきてそれを返り討ちにした。それだけである。
だが、今考えると確かに変である。それに襲ってくる前にネロはポイズンハザードの視線を感じているのだ。まるで狙いをすましているかのように。
……不気味だ。当然だがネロには自分が襲われる理由の自覚はない。理由もなしに無差別に襲ったのがたまたまネロたちだった。これが一番平和だ。無差別ではなく明確に理由を持っていたのだとしたら。これほと不気味な話はないだろう。




