鉄色の輝き
「お待たせしました。こちらが新しいギルドカードになります」
女性の事務員が笑顔でそれを渡してきた。受け取ったのはネロの新しいギルドカード。見習いの白いカードではなく、鉄色の四級魔導士のものだ。受け取るまでは信じられなかったし、受け取ってからも正直信じられない。……こんなに簡単にもらってしまっていいんだろうか?
「それでは今回初めて昇格されたネロさんに当ギルドの昇格規定を説明いたします。今ネロさんは四級魔導士でいらっしゃいますから魔物使いで初級ライセンスをお待ちの状態です」
ライセンス……か。なんか微妙に聞き覚えがあるな。どこで聞いたんだっけか。とりあえずライセンスとは何か聞いておくか。それで思い出せるかもしれない。
「初級ライセンスとは?」
「ライセンスは魔導士ギルドが認定する資格ですね。五級までが初級、三級になると中級ライセンスが自動で認定されます」
あぁ、思い出した。キダルが戦闘スタイルの説明をしてくれた時にしてた話だな。確か二級魔導士になるには複数の戦闘スタイルで上級ライセンスが必要だって話だ。……ん? 今三級で中級ライセンスって言ったよね? それじゃあ上級ライセンスはいつ手に入るんだ?
「そして三級魔導士になれば上級ライセンスの認定の申請が可能になります。これを複数の戦闘スタイルで達成した魔導士を二級魔導士へ昇格させるというのが規定となっております」
……なるほど、それはちょっとばかり面倒だね。魔導士のランクを上げるだけでは上級ライセンスの資格はなくて、それを複数の戦闘スタイルで行わないといけない。……しかもタイムリミット付き。改めて考えると卒業までのハードルがかなり高いことが分かる。
「……ちなみに、中級ライセンスの資格、三級魔導士になるには何をすれば?」
「三級魔導士へ昇格するには、三級の認定演習を3つ以上、そしてDランク以上の依頼を5件以上達成すること、最後に戦闘スタイルごとに設定された条件を達成すること。以上全項目の達成が条件になります」
「戦闘スタイルごとに設定された条件? 例えば?」
最初の2つはいいとして、最後の項目が気になったネロは聞こえてきたそのまま口に出した。もし達成が難しい内容だとしたら早めに聞いておくべきだ。このネロの考え方はある程度正しいはずだ。
しかし事務員の表情は渋い。その表情に困惑していると事務員は周囲をちらりと伺ってから静かに口を開いた。
「……秘密なのです」
「……は?」
「他の2項目が達成された時、条件を満たしていればライセンスが発行されます。発行されなければ条件を満たしていないと思って下さい」
ネロは頭を抱えた。条件が分かっているなら達成は割と簡単である。だが言葉ぶりを考えるに、達成していても条件が何であるかは教えてくれないのだろう。故にキダルに聞いても恐らく無駄である。
他の項目が達成される頃に偶然達成していた、となるのが理想である。詳細の分からない条件に振り回されるのは面倒くさすぎる。
とはいえそれは当分先の話である。ネロはひとまず四級魔導士に昇格したことを喜ぶことにした。鉄色の輝きはネロの口角を分かりやすく上げたのであった。
扉がノックされ部屋にキダルが帰ってきた。隠すようなものではないから、取り出していたギルドカードはそのままである。当然キダルはすぐにその色が変わっていることに気が付いた。
「……あれ? それ四級魔導士のギルドカードだよね? 随分と早くないかい?」
「……へへ、実は今日昇格したんだ」
寮の部屋に帰ってからネロはギルドカードをずっと眺めていたのだ。まだニヤつきが抑えられていないのは相当嬉しかった証拠である。
「五級魔導士だったら数日で昇格する人も中にはいるんだけど、四級魔導士をその速度で昇格した人はちょっと知らないな。なんなら最速記録なんじゃない?」
「おだてるのはやめてくれよ。それに最速記録だとすればそれは俺じゃない」
「? ネロより早い人がいるの?」
キダルの表情が笑顔から真顔に変わる。そんな人いるのかと言いたげな顔だ。そんな顔をされてもいるんだから仕方ない。後ろでヴァンが肩をピクリと動かしたのが横目に見えた。
「ヴァンだよ。俺のパーティの一年生全員が四級に昇格したからな」
「へぇ! 同時に昇格とはこれまた珍しいね。確かにそれならヴァンが最速か。転入して来て……1週間経ってないよね? うわぁ、圧倒的」
ヴァンは恥ずかしいのか何も言わず頭を少し下げただけだ。どうやら照れているようだ。魔族なのに随分と人間らしい仕草である。ネロは思わず笑ってしまった。
「しかし……、こんなに早く四級魔導士になるとはね。いくら二級魔導士だからってうかうかしてると抜かされそうだな」
「いやぁ、二級魔導士はさすがにまだまだ先だよ」
「またまた、どうせ君たちはあと一月か二月くらいでまた昇格するさ。その前に先輩らしいことはしておこうかな」
「……?」
「食堂で祝賀会を開いてあげるよ。もちろん僕の奢りでね」
キダルはそう言って微笑みを浮かべた。そう言われると急に腹が減ってきたように感じるから不思議だ。もちろんありがたくその申し出を受け取りネロたちは食堂へと向かったのである。




