幻獣研究所
「幻獣研究所?」
ネロたちの反応にギルド長は扉近くで待機していた事務員を呼びつけた。二、三語ほど言いつけると事務員は早足で応接間を出ていった。
「本来そなたたちに見せるものではないんじゃが、今回はいいじゃろう」
「……?」
「魔導士や魔物に関する建物は通例、建てる時に魔導士ギルドの許可が必要になる。その書類じゃよ」
そんなものがあるのか。とネロたちが感心していると扉がノックされた。どうやら先ほどの事務員がもう戻ってきたらしい。手にはバインダーを持っていた。
「ご苦労じゃったの、下がって良いぞ。さてさて、当時幻獣研究所が提出した書類がこれじゃ」
ギルド長はバインダーを開いて数枚書類をめくり、テーブルの上に広げた。ちなみに血で汚れた箇所はきちんと避けて広げている。その辺は抜かりない。
事務書類のため人が見て分かりやすい構造にはなっていないし、使われている言葉も難解である。ネロには何が書いてあるのかさっぱり分からない。だから必然的に視線は文字ではなく、写真に集中する。
なるほど、この写真は建物の外観を写したもののようだ。幻獣研究所と書かれた看板の横には確かにペンダントによく似た模様が描かれていた。
「しかし幻獣研究所とは……。これまた随分と古い言い回しをするんですね」
「……ヴァン、そもそも幻獣って何だ?」
「魔物のことです。昔は魔物と人間はしっかりと棲み分けがしてありました。魔物は人間にとって滅多に遭遇しない存在。ですから幻獣と呼んでいた。そんな歴史があるのですよ」
知らない歴史の話だ。レオンの様子を伺うとレオンも初めて知った顔である。どうやらネロが不勉強なだけではないようだ。なんだか安心したネロはほっと胸を撫で下ろした。
しかし不思議な話である。要するに幻獣研究所は魔物研究所ということだ。博物館のような建物なら興味を引くためにわざと古い言い回しを使うのもアリかもしれないが、見るからに人を呼ぶ建物の見た目ではない。
むしろどちらかと言えば誰にも気付かれることなく、独自の研究をする類の怪しい研究所だ。……なぜ幻獣と名乗ったのだろう?
「古い文献を元により深いより新しい研究を。それがこの研究所の謳い文句じゃ。幻獣、としたのも一種のこだわりじゃろうな」
「あのポイズンハザードも研究の一環ですかね」
「それは何とも言えんの。じゃが、良からぬ研究ではないかという疑いが生まれたのは事実。調査が必要なことは確かじゃ。この件はギルドが預かり調査を進めておこう」
「レオンさん、それでいいですね?」
「……⁉︎ あ、……あぁ。それで大丈夫だ」
いきなり話を振られたからかレオンはかなり慌てての答えだ。自分の出る場所ではないと油断していたらしい。それがバレてレオンは少し恥ずかしそうである。その様子が可笑しくてネロはこっそり少しだけ笑った。多分誰にもバレていない。
「それでは幻獣研究所についてはギルドが責任を持って調査しよう。何か分かれば伝達するようにしておくの。……それから今回の報酬じゃな」
「……報酬?」
「ポイズンハザードの討伐報酬じゃよ。帝都の危機を救ってくれたのに報酬がないなんてことはあるまい?」
そういえばその通りである。思い返せばそもそもネロたちはポイズンハザード討伐のサポートを任されていたのである。そしてそのために時計広場へ向かおうとしたその時にポイズンハザードに襲われる形で戦闘が始まったのだ。
討伐のサポートはギルドの事務員から依頼された正式な依頼であり、報酬も存在する。そしてサポートに報酬があるのに、討伐に報酬が無いなんてことはないだろう。……もっといえば、サポートよりも豪華な報酬なはずである。どんな報酬だろう? ネロの期待は瞬間的に膨らんだ。
「まずは報酬金が500000G、そして杖と剣がそれぞれ1本ずつじゃ」
言いながらギルド長はどかどかとテーブルの上に並べ始めた。500000Gは白金貨50枚である。白金貨自体あまり見かけないのにそれが50枚である。綺麗に積み上げられた光景は圧巻である。
「……とまあ報酬としては以上なんじゃが」
「……? まだ何か?」
「そなたたちは魔法学校の学生パーティじゃろう?」
「……??」
「ならランクは上がった方が嬉しいはずじゃ。さすがに三級魔導士の2人は無理じゃが、今見習いの3人はすぐに昇格してやれるの。……どうじゃ? 悪い報酬ではあるまい」
レオンはこちらを見ている。ネロは反応に困る。見習いから昇格ということは五級魔導士だ。加入したてのヴァンならともかく、ネロとジースはあとひとつ依頼を報告すれば昇格条件を満たすのだ。つまりこれでは報酬はないのと同じである。
「……おや、勘違いしておるな」
「勘違い?」
「見習いと言ってもそなたたち2人はもうほとんど五級魔導士みたいなものじゃ。実績も足りておるしの。よって昇格とは四級魔導士に、という意味じゃ。悪い報酬ではないじゃろ?」




