ギルド長
見たこともない綺麗な部屋に案内された。ここは応接間というらしい。ヴァンは慣れているのかどっかりとソファに腰掛けている。……多分普段のヴァンはこんな感じなのだろう。その出で立ちは風格を漂わせていた。
軽めのノックと共に片方だけ眼鏡をかけたおじいさんが入ってきた。名前しか知らないが、恐らくこの人がギルド長だ。
おじいさんと言っても背筋は伸びシャツに包まれた腕は筋肉質。放つ威圧感はあの時のポイズンハザードよりも上だ。さすがはギルド長といったところか。
「ギルド長のアルジェラン・ストラトフだ。……ええと、ポイズンハザードを討伐したパーティということでよろしいか?」
「それで間違いない」
ギルド長はレオンのその返答に満足そうに微笑んだ。さりげなく額をかくふりをしてネロは目をつぶる。索敵魔法ではシルエットが青だったが、変身魔法を通せば赤色となった。やはりヴァンの言うようにこの人は魔族で間違いないようだ。
「しかし討伐の証を提出することはできないと。……それはどうして?」
「死体が忽然と消えたからだ。ポイズンハザードがいた場所にはなぜか見覚えのないこの死体が転がっていた。……これではポイズンハザードの討伐の証だとは言えないだろう?」
レオンは話しながらテーブルにとある死体をゴロリと置いた。何も下に敷かずに置いたからテーブルは血で汚れている。「ひっ!」という声が聞こえたが、恐らくジースだろう。多分綺麗なテーブルを汚すと怒られるのではとかそんなところだろう。
ギルド長はレオンがテーブルを汚したことについて特にリアクションはしなかった。そのことでジースは胸を撫で下ろす。ジースは気にしすぎだし、レオンは気にしなさすぎだ。
さて、見たところその死体はブラックスパローのように見える。どう見てもポイズンハザードには見えない。これを討伐の証と言うのはかなり無理があるだろう。ギルド長は置かれたその死体をゆっくりと手に取った。
「失礼、確認しよう」
ギルド長は眼鏡を通しじっくりと確認を始めた。あの眼鏡は魔道具なのだろうか。魔道具のことはさっぱり分からないが、何か特別なものではないかとネロはぼんやりと感じた。
「……ふむ、なるほど。これは確かにポイズンハザードの死体で間違いない。もっと正確に言えばポイズンハザードだったものの死体、……じゃの」
「ええ、そうです。恐らくブラックスパローをポイズンハザードに見せる幻覚系の魔法でしょう」
「私もその見立て、鋭い推察感謝する。……それで、君たちが私に伝えたいというのはこれで以上かの?」
ギルド長はにこりと微笑みを浮かべた。ポイズンハザードの討伐証明としてはこれで以上である。すんなり認めてもらったので話は早く済んだ。
だが、話はこれで終わりではない。ヴァンはあるものを取り出した。それは小さなペンダントのようなものである。ネロはそれがヴァンが死体から引きちぎった面白いものであることを思い出した。
「……それは何じゃの?」
「ペンダントです」
「それは見れば分かる。これはいったい誰のペンダントなんじゃ?」
「ギルド長もご存知とは思いますが、ブラックスパローに幻覚系の魔法は使えません。故に自然発生的に起こったものではない。裏に人の手が介入していることは明白。ですから辿らせてもらいました」
「辿る?」
「魔物使いは通常契約している魔物と魔力での繋がりを持ちます。魔物が絶命する前ならば、そこを辿れば魔物使いの居場所は突き止められます」
ギルド長は驚きと困惑に満ちた表情をしていた。そしてそれはヴァン以外の面々も同じである。言っていることは理解できるが、そもそも実現は可能なのか。話のレベルが高すぎて全員上手く反応ができていない。
「……そなた何者じゃ?」
「ご自身で確認された方がよろしいかと。……その眼鏡、大変良いものに見えますから」
ギルド長は驚きで目を見開き、そして細めた。細めたのはたった一瞬だがそれで理解したのだろう。そう、ヴァンは魔族なのだ。悪魔族のヴァンパイアグレイス。それがヴァンの魔族としての名前だ。
「……なるほど、ヴァンパイアグレイス。それならその技術力の高さも頷ける。貴族が魔導士になっているとは本当に驚きじゃ」
「あなたも似たようなものでしょう。それに私はそもそも召喚され契約された身ですから」
ギルド長は先ほどよりももっと大きく目を見開いた。まさかヴァンパイアグレイスが? そう言いたげな表情である。ネロは嫌な予感がした。
「これまた驚きじゃ。そなたと契約を交わしたものがおるじゃと? してそれは誰じゃ」
「……ええと、はい」
ネロはおずおずと手を挙げた。名乗り出るのは恥ずかしいが、ヴァンに代わりに言ってもらうのも恥ずかしい。結局恥ずかしいのだから腹を括ったのである。
幸いギルド長は意外だとは思わなかったようだ。感心したように何度か頷いただけだ。
「さて、それでこれの話じゃの。このペンダントの模様には心当たりがある。数月ほど前に帝都にできた研究所のものじゃ。……確か幻獣研究所と名乗っておったかの」




