初めての召喚
ネロは収納魔法に手を突っ込むと手に入れた戦利品をテーブルに並べた。右耳やゼリー状の個体、骨、羽根。大小様々なものが8個ほど並んだ。それを見てロージアは満足そうに唸った。
「良いねぇ、良いねぇ! バッドバットの羽根にワイトの骨。闇属性の魔物が複数ある。それにこいつは……、低級の枠を軽く超えてやがるな」
ロージアは目をギラギラさせている。正直怖いほどに。目線の先には黒い羽根。あまりに綺麗だからとネロが持ち帰ったものだ。やはりこれも魔物の一部だったようだ。
「このレベルならその辺の魔導士ではちょっと厳しい。準級魔導士のあたしでさえ単騎で討伐と言われるとためらう。魔物としてはかなりの……、正直あたしが欲しいくらいだ」
「……それほど?」
「あぁ、それほどだよ。ま、取りはしないけどな。これはあんたのものだよ、大切にね」
さらっと準級魔導士って言ったな。確かトムソンだっけ? ブレイド寮のあの人と同じだ。高いのか低いのかいまいちわからないが多分高いんだと思う。
その人が欲しいって言ったんだ。……つまりは相当にラッキーなのだろう。正直嫌でも期待してしまう。とんでもないものを拾えたもんだ。……あ、そうだ。
「質問なんだけど」
「なんだい?」
「今俺が持ってる魔物の一部は拾ったもの。森の中に転がってた死体から手に入れたものばかり」
「あぁ、そうだな」
「これってつまり討伐された魔物ってことだろ? それを使って戦っても討伐されちゃうだけなんじゃ? 召喚して意味あるの?」
ネロは先程考えていた疑問をロージアにぶつけてみた。召喚魔法というからには召喚には魔力が必要なのだろう。もしかすると召喚中にも魔力を使うかもしれない。それなのに召喚する魔物が討伐された魔物ばかりならただの無駄ではないか。そう思ってならないのだ。
ロージアはにんまりと笑ってそばにいた翼竜の首筋を撫でた。そういえばこの翼竜はずっとロージアのそばにおとなしくいる。召喚を解いたようには見えない。ずっと召喚しているのだろうか。
「魔物使いはね、魔物の強さを最大限引き出してあげる。そういう戦闘スタイルなんだよ。だから魔物使いはまず召喚する魔物を知らなきゃいけない。そのために多くの魔物使いは召喚した状態でその魔物とずっと日常を過ごしている。……そうやって魔物への理解を深めているんだ」
「……なるほど」
「それに魔物もまた成長する。あたしたちと同じようにな。一流の魔物使いが使う魔物はどれも強い。低級でさえも、……だ」
ロージアの言う低級とはゴブリンやスライムといったいわゆる雑魚である。彼らが低級の魔物とされるのはその知能の低さによるものが大きい。その弱点を魔物使いならば補えるのだ。低級の魔物だから召喚してもあまり意味がないなんてのはネロの思い違いである。
「それじゃあどんな魔物も召喚する意味があるってことだな」
「そういうこと」
「ねぇ、質問なんだけど」
「なに?」
「……その羽根の魔物の正体って分かるの?」
「これか。……恐らくヴァンパイア種。これが放つオーラから考えるとロードの可能性がある」
ヴァンパイアロード。黒い綺麗な翼と端正な顔立ちでおとぎ話では人気の魔物である。そしてネロが強く憧れたおとぎ話に出てくる魔物でもある。もしロージアの言っていることが正しいのなら、ネロはヴァンパイアロードの一部を既に手に入れていることになる。
つまりは召喚可能ということだ。そのことに気がついたネロは目を輝かせた。……が、そう上手くはいかない。ロージアは渋い表情で口を開いた。
「まあ最初の魔物としては不適格だな」
「……え? どうして?」
「召喚魔法は召喚時だけじゃなく、召喚中にも魔力を使う。そしてそこで使われる魔力は魔物の強さに応じて加速度的に増える。この魔物の一部をもとに召喚したとして、……あんただったら召喚できても1時間くらいで魔力が尽きるかな」
なるほど、それは避けた方が良さそうだ。魔力はエネルギーである。魔力がなければ何をすることもできない。
無論、戦闘だけなら1時間もあれば充分かもしれない。だが間違いなくその後倒れてしまうだろうし、そもそも魔物を知り強さを引き出してあげるにはあまりに時間が足りない。
やはり最初の魔物は低級の魔物からということだ。となると選択肢は2つ。
……さて、どちらにしようか。
「それじゃあ俺はコイツを召喚しよう」
「ほう、それに決めたか。……それでは召喚魔法を教えてやろう。渡した水晶にこれを入れな」
言われるがままネロは水晶の入れ物を出した。入れ物には穴が空いている。ここから入れろということだ。ネロはコウモリの羽根を手に取ると恐る恐るその穴に入れた。
羽根は見る間に小さくなり穴の中に収まった。穴は綺麗に無くなっており、紫に光るその水晶の中には先程入れた魔物の一部が揺れている。これで正解か? ロージアを見やると彼女は静かに頷いた。あとは唱えるだけだ。
「……召喚」
その瞬間、水晶が強い光りを放つ。光は斜めに差し込むと地面に突き刺さり、魔法陣を描き始めた……。
「……おめでとう。これであんたは魔物使いだ」




