探しものは一部ですか?
足を踏み入れて気がついた。この森やたらと歩きにくくて仕方ない。
魔物の一部を探すために視線を下に向ける。変に伸びた木の枝に引っ掛かる。枝を避けるため視線を上に向ける。やけに大きな石につまづく。ぬかるみにハマる。……いったいどこを向けばいい?
いい加減うんざりしてきた時あることに気がついた。そうだ、飛べばいいんだ。だから今俺は空を飛んでいるのだ。
飛ぶのは得意である。想像すれば翼が出せるし、操るのも慣れたものである。それにこの状態で他の魔法も使うことができるのだ。
今発動しているのは暗視魔法。闇属性の補助魔法で暗い場所でもよく見えるようになる効果がある。多分本来なら違う魔法をつかうんだろうが、分からないんだから仕方ない。それに暗視魔法でも結構魔物がいるかは分かる。
結論から言えば、近くには全くいない。近くにあるのは死体ばかりだ。
収納魔法から古びた図鑑を取り出す。おとぎ話に惹かれた俺にと祖母が買ってくれたものだ。あのおとぎ話ほどではないが、それなりには読み込んだ。今では生きた魔物なら多少知っている。だから図鑑を読みながらであれば俺は死体でも判別は可能だ。
「ええと、これはゴブリンだな。……杖っぽいものが見えるってことはゴブリンメイジもいたのか」
そっと地面に降り立つと、一番近くにあった死体をがさくる。ゴブリンばかりだが、一部メイジも混じっているようだ。そしてどれもこれも右耳が削がれている。……人為的なものを感じる。多分に先客がいたのだろう。
ゴブリンはどの種も無属性の魔物。闇属性ではないから持って帰っても仕方ない。……とはいえ、ちょっともったいない気がする。ネロはナイフを取り出すとゴブリンとゴブリンメイジの左耳を削いで収納魔法に仕舞った。
周囲を見渡す。……あいにくゴブリンばかりのようだ。闇属性の魔物は見当たらない。おや、羽根が落ちている。
「……綺麗だな」
暗いにも関わらずその黒い羽根はまるで輝いているかのような存在感を放っていた。正体は分からないが、一応持って帰ろう。ロージアならきっと分かるはずだ。
そこからさらに歩く。あれは恐らくホーンラビットの死体だ。ツノは近くに見当たらない。先客がもらっていったか。ホーンラビットは地属性の魔物。闇属性ではないが持って帰ろう。おや、あそこにあるのは……。
注意深く地面を見ていたからかその後もネロは調子良く魔物の一部を手に入れていた。討伐せずとも手に入れるのはそれなりに簡単のようだ。ネロはなんだか魔物使いとしてやっていける気がしてきた。だが同時にある疑いも湧いてきていた。
今まで手に入れた魔物の一部は全て討伐されていた魔物の一部。それを武器にしたとて、返り討ちに遭うだけなのではないか。そんな疑問である。
「……そろそろ戻ろうか」
闇属性の魔物、ワイトの骨を拾ったネロはそう呟くと来た道を引き返し始めた。引き返した理由は2つ。闇属性だと自信を持てる魔物の一部をこれで恐らく複数手に入れたから。そしてもう1つは、……それよりも奥が暗視魔法では見えなかったからだ。
普通の暗闇なら見えるはず。見えないのなら普通ではない。それにちょっと寒気がする。もしかすると強い魔物が潜んでいるのかも。どうせ目的は果たせたのだから、戻ってもいいはずだ。
「おや、戻ったか」
暗夜の森の入り口まで引き返すとコーヒーを片手にロッキングチェアに座るロージアがいた。テーブルの上には菓子も見える。……長居するつもりだったのか?
「……ええと、これは?」
「簡易的なキャンプだ。魔法で魔物には気づかれないようにしてある。さて、ひとつ質問だ」
……質問? なんだろ。
「順調に進んでいたが、ある地点から引き返したな。その先にはなぜ行かなかった?」
「……何となく、強い魔物がいそうだった」
「何となく……か。根拠はないと?」
「暗視魔法で先が見えなかったんだよ。だから引き返した」
「……なるほど、思っているよりもずっと優秀だな。ふふっ、褒めてやろう」
そう言うとロージアは微笑みネロの頭を雑に撫でた。撫でられたのは久しぶりである。それに褒められたのは嬉しい。……なぜ褒められたのか。それを考えるに、恐らく魔物はいたのだろう。それもかなり強い魔物が。
「周囲の魔力が濃いと視界が歪むこともある。恐らく暗視魔法で見えなかったってのはそれだ」
「なるほど?」
「しかし暗視魔法か。確かに闇属性なら使えることはあるだろうが珍しいな。普通は夜でも索敵魔法を使う」
「索敵魔法?」
「なるほど、知らなかったのか。それなら納得だ。……後で教えてやろう。なに、基本の魔法だからすぐに習得できるさ」
「え、……今じゃなくて?」
「ははっ。それより今はやることがあるだろ。さ、見せてくれないか。持って帰ってきた魔物の一部を……!」




