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寮に入るその前に


 翼竜は森の入り口にたどり着くとゆっくりと地上に降り立った。恐る恐るネロは地面に降りる。ロージアは慣れたように飛び降りた。

 目的地はここなのだろう。ネロはひとり辺りを見渡す。もう夕方が近いのか空が少しばかり赤く染まっている。目の前にはかなり大きそうな森。当たり前だが知らない場所である。見覚えなどひとつもない。どうしてここに連れてこられたのだろうか。


「……ええと、ここは?」

「西の森だよ。人はここを暗夜の森なんて呼んでることもあるね」

「……寮は?」

「ん? あんたもしかして何もしないでスレイブ寮に入ろうとしてたのかい? 寮に入る前にやることがあるだろ?」


 ロージアはさも当然と言いたげな顔だ。通過儀礼のようなものか? ネロは少し警戒を強めた。

 だがロージアはそんなことお構いなしに続けて口を開いた。


「あんた見た感じ闇属性だね? 珍しい。ええとあれはどこにやったかな」


 髪の色から判断したのかな。確かに俺は闇属性の魔力マナを持ってるけども。……というかここがどこかを聞いたわけじゃないんだよな。どうしてここに連れてこられたのかが、わからないのであって。


 ちょっぴり不満顔のネロにロージアは収納魔法からあるものを取り出した。小さい指輪がひとつ。それから水晶で出来た何かの小さい入れ物。いったいこれは何なのだろう?


「これに魔物の一部を入れておくんだ。それが召喚の条件になる」

「召喚?」

「ブレイド寮なら剣を、スタッフ寮なら杖を持つ。スレイブ寮が持つのは魔物。言ってしまえばあたしたちは魔物使いなんだよ」


 言いたいことは何となくわかってきた。寮は戦闘スタイルで変わるとトムソンも言っていた。スレイブ寮なら魔物を使う。どうやらそういうことらしい。

 そしてそれを踏まえて整理すれば、ロージアが要求しているものが何なのかも自ずと理解できる。この入れ物に魔物の一部を入れて、召喚の条件を満たせと言っているのだ。……魔物の一部?


「魔物の一部……?」

「そう、一部。何でもいい。牙でも羽でも爪でも、……とにかく何でもだよ」

「それは……例えば討伐してこいってこと?」

「ははっ、違うよ。もちろん討伐して手に入れるのが一番早い。でも魔物はね、強いんだよ。それもかなり。死にたいってんなら止めないけど、あまりおすすめしないね」

「それじゃあどうやって?」

「決まってる。……拾ってくるのさ」


 なるほど、落ちてるものでも条件は満たせるらしい。スレイブ寮ではないこの場所のどこかで魔物の一部を探し、何らかの魔物を召喚すること。どうやらそれがスレイブ寮に入るにあたって事前にやっておくべきことのようだ。

 ネロはロージアのそばで凛と立つ翼竜を見た。バドラ島にだって魔物はいる。小さい頃からそれなりの数を見てきた。だがこんな翼竜は見たことがない。正直言ってかっこいい。こんな魔物が召喚できるのなら、魔物使いも悪くないかもしれない。


 ならば気合いを入れなくては。言ってしまえばこれは俺にとって初めの魔物となる。翼竜とまでは言わない。でもそれなりに、ちょっとかっこいい奴がいい。そう考えると口元がニヤつく。


「さっき渡した水晶は闇属性の魔物専用の奴だ。それ以外だと失敗するから気をつけるんだよ」


 あぁ、そうか。そういえば魔物には属性があるんだったな。闇属性の魔物を見つける必要があると。多少は知ってるけど、詳しくは覚えてないんだよね。

 ……そういえば良いものを持って来てたんだったか。あれを使えば属性の判別もある程度は出来るね。


「じきに夜になる。夜になると魔物は活性化してしまう。日が完全に落ちるまでには帰ってこい」

「……分かった」


 ネロは軽く頷いて森の入り口へと向かって駆け出した。ロージアはその姿を静かに見つめていた。





「……ふむ、思ったよりはやる気がありそうだ。さてさて、彼は何を持って来るか楽しみだよ」


 暗夜の森は帝都近くでは珍しく魔物がよく出現する場所である。……と言ってもその大多数は低級で、経験が浅い魔導士の格好の練習場所となっているのだ。

 恐らく今日も多くの魔導士が練習や依頼に訪れただろう。そして多くの魔物が討伐されたはずだ。討伐した魔物は討伐の証拠に一部だけ持って帰る。いずれ魔力マナに分解されるため、魔物の死体は普通放置される。つまり取り放題だ。


 彼、……ネロと言ったか。中々の魔力マナの持ち主だ。三級魔導士までならすぐに届く。鍛えれば一年の間に二級魔導士だってなれるかもしれない。というかむしろそれ以上になってくれないと困る人材だ。中級の魔物なんかに喧嘩を売って命を落とすようでは困る。だからあの指輪を渡した。

 今彼がどこにいるのかはそれで分かる。索敵魔法と組み合わせれば魔物と遭遇するかどうかも分かる。それがどんな等級かも。……移動速度が速いな。何か魔法を使っているのか? まあ、いい。危なくなれば助けてやればいいんだ。ひとまず今は彼が何を持って帰って来るのか。楽しみに待つとしようか。


 1人用のロッキングチェアに座り、コーヒーをすする。暗夜の森に意気揚々と走って入ったネロを見届けたロージアは穏やかな笑みを浮かべていた。時間はそれなりにかかる。さて、どうやって時間を潰そうか。

 

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