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異常事態


 帝都に戻ったネロたちはまっすぐ魔導士ギルドへと向かった。ギルドは既に問い合わせの魔導士たちでごった返している。内容は全員同じ。何が起こっているのか。それだけである。

 これだけの人ならば依頼報告には時間がかかりそうだ。レオンを待つ間ネロたちはギルドの隅っこで様子を伺うことにした。……数分が経ったがレオンは戻ってこない。そして何が起こっているのかも分かっていない。ただ人だけが増えるばかりだ。


 魔導士ばかりがギルドにいるようだが事務員は何をしているんだろう? そう思いネロは辺りを見渡してみる。特に変わったことはない。……ふと人の気配がしてネロは顔を前に向けた。見覚えのある人が立っていた。


「やあ、ネロじゃないか。調子はどう?」


 にこやかに手を差し伸べて話しかけてきたのはエレクである。どうやらエレクのパーティもギルドに来ていたようだ。少し遠くにパーティらしき人たちが何人か見えた。

 幼馴染が近くに来たことでネロの表情も緩む。こちらもにこやかに笑って握手に応じた。……やけに握りがキツい。何かあったっけ?


「……あ゛⁉︎」

「……思い出したかい? 僕は君が帰ってくるのを君の寮で待っていたんだがね」


 エレクはにこやかに恨み節である。そういえばヴァンが編入生としてやって来たその日、事情を説明するからエレクに寮の部屋に来てくれと言っていたんだった。申し訳ないことに完全に忘れているのである。


「僕は次の日謝罪でもあるのかと思って昨日も教室で待ってたんだけどねぇ?」


 何も言えない。今の今まで忘れていたのだから謝罪なんてできるはずがないのだ。これはもう完全にネロが悪い。ネロは混雑で無理のない範囲で最大限頭を下げた。


「ごめん」

「……忘れてたね?」

「……うん」

「まったく君はしょうがないねぇ。ま、忘れてるだろうとは思っていたけどさ」


 呆れたようなエレクの口調が聞こえた。怒りは混じっていないようだ。恐る恐る頭を上げる。エレクは苦笑い混じりの笑みを浮かべていた。どうやら許してはくれたようだ。ネロはほっと胸を撫で下ろした。


「寮で待ってたってどこで待ってたんだ?」

「君の部屋の前さ。寮の人に聞いたから合ってると思うけど」


 やはりそういうことか。寮の前なら気付いていたと思うが前の部屋の前で待っていたなら気付かない。多分ずいぶんと長く待っていただろう。そう思うとちょっと心苦しい。


「なるほど、そりゃ僕の運が悪かったな。……話はマーサから大体聞いたよ。あんまり大々的に言いまくるのも変だからさりげなく話を合わせる感じにしておくね」

「助かる。ありがとう」

「どういたしまして。……ついでにもうひとつ君にあることを教えてあげるよ」


 エレクは真顔になってそんなことを言い出した。真面目な表情とセットにやけにもったいぶった口調をエレクがする時は、決まって想像もつかない事態を知っている時だ。一文字も聞き逃さないようネロは聴覚を研ぎ澄ませた。


「この騒ぎの理由だよ。僕のパーティは原因のひとつに遭遇したんだ」

「……原因のひとつ?」

「恐らく未確認の上級魔物。3m以上あるバカデカい鳥が帝都周辺を飛んでいるのさ」





 ようやく報告を終えたレオンが合流し、ネロたちはギルド近くの喫茶店に来ていた。本当は定食屋が空いていれば良かったのだが、今はお昼時。席が無く断念したのである。

 一旦は腹ごしらえだ。ネロは頼んだスパゲティを頬張る。トマトの爽やかな酸味が食欲をこれでもかとそそる。ネロは一息にみんな食べてしまった。周りを見ると食べ終わっているのはネロとヴァンだけである。ヴァンはとても満足したのかネロの視線に気付かずただ目を細めている。……なるほど、このスパゲティが特別美味しいのかもしれない。


「……ちょっと行儀が悪いが、食べながら聞こう。ネロ、君の幼馴染から聞いたその話を改めてしてくれ」

「あぁ、……帝都周辺で目測3m以上の巨大な鳥のような魔物が現れたらしい。色は黒っぽい紫。それだけを確認してエレクたちは退散したそうだ」


 未知の魔物と遭遇した時の対応としては満点に近いだろう。大体の大きさと外見的特徴が分かれば、専門家であれば魔物が何であるかを割り出すことができる。


「……それだけデカい魔物が空にいたら弱い魔物は逃げるだろうな。ちなみにヴァンは魔物に心当たりがあったりするのか?」


 視線がヴァンに集まる。この中で一番魔物に詳しいのはヴァンだ。……だがヴァンは渋い表情である。珍しい魔物なのだろうか?


「黒っぽい紫色の鳥型の魔物であれば、私に1体心当たりがあります」

「おお!」

「ですが、……その魔物はそれほど大きくないのですよ。主様、図鑑を出していただけますか?」

「分かった。魔物の名前は?」

「ポイズンハザード。猛毒を操る危険な魔物です」


 取り出した図鑑のページをめくる。ポイズンハザードは確かに図鑑に記載されていた。挿絵には黒っぽい紫色をした鳥型の魔物が描かれている。厳めしいくちばしは何とも言えぬ恐ろしさを醸し出していた。そして体長は……、約60cmと記されている。

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