流れに身をまかせ
答えが出ないまま朝が来てしまった。ずっとうとうとしていただけでしっかり寝た気がしない。寝るまでも寝ている時も、そして起きてからもネロはずっと考えていた。どうするのが最善か分からなかった。
キダルに聞けばパーティは6人編成も有り得はするらしい。ただそれなりに珍しいから目立つんじゃないか。とも言っていた。安心などできなかった。
ネロは結論を出すのをやめた。流れに身を任せることにしたのだ。レオンは理解のある人だ。きっとヴァンのことも、あのタイミングでは言えなかったことも理解してくれるだろう。半ば諦めのような結論をつけてネロはパーティメンバーのいる部屋の扉を開けた。ルシフの姿は見えなかった。
「……話は聞いた。パーティに入りたいと言っているのはそこの魔族の彼だな」
「ええ、ヴァン・ベルモットの名で登録をしております。お気軽にヴァンとお呼び下さい」
どうやらノーラが前もって話を通してくれたらしい。レオンは既にヴァンのことを知っているようだ。……これは流れに身を任せるのが正解なのかもしれない。
「ヴァンとネロの関係は、……幼馴染ってことでいいか?」
「……まあ、そうだな」
「だろうな。それだとそこまで疑われない。よくある話だからな。……まさか丸被りとは思わなかったが」
レオンは苦笑いを浮かべている。それはもちろんルシフのことだろう。あの時レオンが持っていたのはネロと同じくパーティ加入のための書類だ。ルシフを加入させるための書類と見て間違いない。
「……パーティは一応6人までなら登録できる。だがまあ俺の方はやめておくよ。6人パーティだとさすがに目立ちすぎる」
「……ごめん」
「俺の方こそだよ。こういう時は相談をするものだ。見る限り俺以外には話がいってそうだ。俺に話が来てないのは大方、俺に会えなかったからだろう? それなら問題があるのは俺だ」
レオンは淡々とそんなことを言っていた。やはり彼は理解のある人間である。そしてそれと同時に今すべき物事を判断できる人間である。同じことをしようとしている人間が2人。ネロは見なかったことにして自分のやりたいことを押し通し、レオンはネロのためにやりたいことを下げた。なんだか自分がとても浅ましい気がしてならなかった。
「書類は持ってきてるな?」
「……あぁ」
「よし、それなら手続きを進めよう。これを出してくるから少し待っていてくれ」
そう言うとレオンは書類を手に取って部屋を去っていった。何となく重い空気が流れていた。
「ノーラさんはレオンさんの幼馴染……、で合ってますでしょうか?」
「うん、レオンは幼馴染だ」
「でしたら、ルシフ・セイリオという男を知っていますね? 元は帝都第一魔法学校の学生らしいのですが」
重い空気など全く気にかけずヴァンはノーラに質問を投げかけた。あの時紹介されかけたルシフのことが気になっているらしい。レオンの幼馴染なのだからノーラも知っているだろう。そう思っていての行動だ。
……だが、ノーラは首を傾げた。
「……誰?」
「……ルシフ・セイリオ。レオンさんは幼馴染だと言っていましたが、違うのですか?」
「残念だけど、その人は知らない。レオンは独特なコミュニティを持ってる人だから幼馴染でも全部は把握してないの。……多分本人に聞いた方が早い」
なるほどとヴァンが小さく呟いた。その時、扉が豪快に開く。もちろん開けたのはレオンだ。
「待たせたな。今この瞬間からヴァンは同じパーティの仲間だ。よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ヴァンの実力はよく知ってる。Gランクの依頼なんてあくびが出るほど退屈だろう?」
「いえいえ、そのようなことはありませんよ」
「昇格のタイミングをずらすのも正直面倒くさい。簡単なハードルなら一気に超えてもそれほど問題はない。……ということで予定変更だ。俺たちはこれから3つのGランク依頼に挑む」
ヴァンは苦笑いを浮かべている。そう買い被られてもという表情だが、レオンは別に買い被りはしていない。楽に達成できるから依頼の数を増やしたのだ。テーブルに広げられた依頼書には、アロエ草4個の納品、ゴブリンメイジ2体の討伐、イービルラット4体の討伐と記されていた。
ネロたちが最初に向かったのは帝都北はずれにある洞窟である。ここにイービルラットが多数報告されているというのがギルドからの情報である。
イービルラットは闇属性低級の魔物である。基本的に群れで行動するため発見自体はそう難しくない部類の魔物である。実際ネロたちも最初の1体を見つけるのはすぐであった。
最初の1体はレオンがすぐに剣を突き立て討伐が完了した。討伐の証として死体の処理をしていると、際運良く2体目が通りかかった。もちろんそれもすぐに討伐された。
洞窟に入って2分足らずで2体の討伐。すぐに依頼が終わりそうだ。なんてネロが思ったからだろうか? そこからいくら進んでもイービルラットの姿は見つからなかった。
それどころか他の魔物とも遭遇しない。さすがに変だ。そう思ってネロは索敵魔法を使った。赤いシルエットが5つネロたちの後ろで反応していた。




