生きるために……
「……なぁ、俺たちってさ。どうして魔物と戦ってるんだろうな」
それは昼食を食べている時のネロの呟きである。
それはとても唐突でジースは食べているサンドイッチをこぼしてしまった。ヴァンはトマトサラダを食べる手を止めこちらをじっと見つめた。
……様子がおかしい。どうやら俺は変なことを呟いてしまったらしい。だが気になってしまったものは仕方ない。
「……理由は分かりませんが、人間と魔物が戦うようになった背景なら知っていますよ」
ヴァンはまっすぐネロを見てそう言った。どうやらヴァンはネロの知りたいことを知っているようだ。ネロはその内容を知らない。だが知らなければならない気がするのだ。だから……、
「それでもいい。ヴァンの知ってることを教えてほしい」
「……この世界の闇の話になります。こんなお昼休みの開けた場所でする話でないことは確かです。……そうですね、それでは学校が終わってから寮の談話室でも使いましょうか。そこで説明いたしましょう」
その日の授業が全て終わり、ネロたちはすぐに寮へと帰ってきた。談話室は1階にある。一旦荷物を置くために部屋に入ったところ、キダルが既に帰ってきていた。これからする話をしてみるとキダルも興味があるようで談話室までついてきた。こうして談話室には4人が集まったのである。
「簡単に言えば、生きるためですね」
結論はいやに簡潔だった。なぜ戦うのか、それは生きるためだ。実に簡潔であっさりとしたものだ。だがネロの求める答えではない。そんなボヤッとしたものではなく、本質が知りたいのだ。
「生きるためと戦うことが俺には上手く繋がらないんだが」
「生きるための環境を取り戻すため、と言えばいいのでしょうか」
分かりやすく言い換えてくれたつもりなのだろうが、ネロにはほとんど伝わっていない。さて、どうやってネロに伝えようか。ヴァンはしばらく考え込む。そんなヴァンの代わりにとキダルが口を開いた。どうやらキダルはある程度理解できたようだ。
「ネロには兄弟はいるかい?」
「いないな。3人家族だ」
「家は広い方?」
「……狭いとは思わなかったな。それがどうしたんだ?」
「多分それがヴァンが言う生きるための環境だよ。快適に過ごせるだけの生活空間さ」
おかげでネロは少しだけヴァンの言うことが理解できた。人間でも魔物でも生きるためには環境が必要である。環境は縄張りと言い換えても良いだろう。自分たちの縄張りが危ぶまれるならば、戦う。それが理由だと言うのだ。
しかし、それだと分からないことがある。人間側が魔物と戦う理由が分からないのだ。人間は別に縄張りを侵されてはいないだろう。
「……主様は百年戦争をご存知ですか?」
知らない単語が出てきた。百年と名前がついているのだからきっと大きな戦争なのだろう。申し訳ないことにこのことに関してネロはまったく知らないのであった。
「まったく知らない、なんだそれ?」
「今からおよそ300年ほど前に始まった戦争です。それまでは人間と魔物は住む場所がまったく異なり、それぞれがそれぞれの暮らしをしていたとされています」
「……それが混ざり合った?」
「その通りです。人間と魔物それぞれ数が加速度的に増えた結果、生きるための場所が無くなった。だから戦いを始めた、……全ては生きるために。百年戦争はまさにキダルさんの言う縄張り争いだったのです」
そこからヴァンの説明は続いた。
百年戦争は文字通り百年続いた長い、長い戦争だったという。人間と魔物、どちらも勝つことはできなかった。それぞれが消耗しこれ以上戦いを続けられなくなったために講和が結ばれたという。魔物が住む場所を魔界、人間が住む場所を人間界。住む場所を分けることで百年戦争は終わったという。
「……それってさ、元々と何が違うんだ?」
「さすがは主様。お察しの通りでございます。結ばれた講和はあまり意味をなさなくなった。その結果暗黙の了解が生まれたのですよ」
「……?」
「極端な数でもない限りは、魔物の数は減らして構わない……と」
「…………???」
「魔導士ギルドで出される依頼。あれは人間だけが考えているものではありません。魔族側の許可が無ければ依頼は出されないのです。……魔導士ギルド責任者、ギルド長アンジェラン・ストラトフは魔族なのです」




