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見分けるために目を覆う


 それからネロたちは食堂へと向かった。食堂は1階にある。以前の部屋も階段を降りれば着いたから近かったが、今度の部屋は相当に近い。コーヒーを買うのが便利になったとキダルはご機嫌だ。


 夕飯には少し遅い時間だからか食堂は空いていた。それぞれご飯を注文してカウンターで出来上がるのを待つ。支払いはキダルがまとめて行う。奢ってもらうのは少し申し訳ない気もするが、どうせ無料だからとキダルは笑っている。

 こういう時ヴァンは何を食べるのかと注目していると、ヴァンはナポリタンを受け取って席へと戻っていった。……どうでもいいがやはり好物はトマトのようだ。


 食事を終えネロたちは部屋に戻ろうと食堂を出た。その時斜め前の部屋の扉が開く。彼らもまた夕食を食べに来たようだ。ネロはその3人組に軽く会釈をして部屋へ戻った。ヴァンは少しだけ難しい顔をしていた。


「……さっき難しい顔をしてたけど、何かあった?」


 先程のヴァンの顔が気になったネロは部屋の扉が完全に閉まるのを待ってそう尋ねた。そこまで待ったのは何となくの勘であまり声を大にして言う話ではないように思ったからだ。


「……いえ、ただ。編入生は全員魔族ではないんですね」

「……はぁ?」


 ヴァンはいきなりとんでもないことを言い出した。編入生のための部屋の準備がしてあるくらいだ。編入生はそれほど珍しいことではない。

 もしヴァンの言うように編入生全員が魔族なのだとしたら、この学校には何人も魔族がいることになる。それはあり得ない。


 そこまで考えてネロはあることを思い出した。それは変身魔法のことを教えてもらった時のこと。ヴァンは変身魔法は変身魔法をかけている人からはバレる。少なくとも数人は気付いている。そう言っていたのだ。あれは冗談ではなかったのか?


「冗談なんてとんでもない」

「それじゃあ、魔族はヴァンの他にもいるのか?」

「ええ、何の目的かまでは分かりませんが私から見て確実に魔族だといえる人は少なくとも数人います」


 ヴァンは真剣な表情だ。嘘を言っているようには見えない。……嘘であってほしかったが、どうやら間違いなく魔族は潜んでいるようだ。正直まったく気付かなかった。


「魔族と言ってもそれほど脅威でもないです。人の言葉を理解して使いこなせれば魔族ですから」

「……なるほど、ちなみにヴァンよりも強い魔族、という条件なら何人になるんだ?」


 聞きながらネロは少し緊張していた。ヴァンの強さは飛び抜けている。手を抜いていてもネロのクラスメイトではとても敵わないし、本気でやればチャールズ先生よりも強いといえる。そんなヴァンをして強いといえる魔族は脅威でしかないのだ。


「……今のところ敵対するとは思えませんが、私より強いと確実に言えるのは……1人だけでしょうね」

「1人いるのかよ。……ちなみに誰?」

「それは言えません。敵対したくありませんから」


 それもそうだ。魔族であることを明かしていないということは、それで困ることがあるからに違いない。となれば無闇に知ろうとするのもよくない。


「……ヴァン、ちなみに僕も聞きたいことがあるんだけど、例えば学生には魔族はいたかい?」

「ええ、いました。主様のクラスメイトにも1名いますね」

「えぇ、……誰?」

「ワダマンド・テーラー。名簿順で最後の学生ですね」


 ワダマンド・テーラー。記憶の端にそんな名前の人がいたなとネロは思い出す。確かマーサの記録が超えられずに叫んでいた奴だ。アイツがそうなのか。正直意外である。


「彼は変身魔法を使って人間に擬態しています。よく見れば分かりますよ。……あぁ、そうだ。主様にも体験してもらいましょうか」

「……何を?」

「変身魔法の見分け方ですよ。ちょうどサンプルがいますから彼で練習できますね」


 そして朝が来た。ネロはあまり寝付けず調子はあまり良くなかった。それもこれもヴァンの話を聞いたからである。

 ヴァンを信用しているのでワダマンドが魔族であることは疑っていない。ヴァンの言う方法を使えば見分けもつくようになる。まあ、ワダマンドとはまだあまり話していないから、これからもそう変わらずに接することができるだろう。……問題はこの後だ。


 同じ方法で他の数人も探すことができる。人と思って接していたが、実は魔族だった。そういう衝撃があと数回は起こるのだ。それを知ってから同じように接せられるかの自信はない。……知りたくないものもあるものだな。ネロはひとりそう思った。


 変身魔法の看破は変身魔法が使えれば簡単である。変身魔法によって作られる魔力でできた膜を通して索敵魔法を使う。これだけで見破ることができるのだ。

 ネロは配られたプリントを魔力の膜で覆い、それを見ているフリをしてまずヴァンを見た。プリント越しに見るヴァンは赤いシルエットをしていた。なるほど、見破れているらしい。


 ひとつ息を吐いてネロはワダマンドの姿を探した。ワダマンドは教室の隅から席替えで一番前の列まで移動している。彼はプリント越しにやはり赤いシルエットが見えた。……あぁ、彼は魔族だったのか。話したこともないのになぜかネロは悲しくなった。

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