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困惑と混乱


「え? 編入生……だよね? え? どういうこと?」

「……編入生って何?」


 かなり困惑したものと、混乱しているものがひとりずつ。……さて、どちらから説明したものか。とりあえずノーラからかな。


「ヴァンは今朝編入生として俺のクラスに来ていたんだ」

「あぁ、そういう。それで編入生。…………待って、つまりヴァンは今魔法学校の学生ってこと?」

「左様でございます」

「……ごめん、理解が追いつかない。マーサが混乱してるからそっちを優先して」


 ノーラの眉間にはそれはそれは深いしわが刻まれていた。全部説明してしまえば充分理解できるんだろうが、途中で説明を打ち切られると多分理解できないのではとネロは思う。……まあ、優先してと言うのだから優先しようか。


「……コイツはヴァンだ。俺が召喚している魔族だよ」

「ええと、今朝から同じクラスになった編入生。……だよね? え、記憶違い?」


 相変わらず混乱しているようだ。とはいえ言っていることは間違っていない。ヴァンは魔族であり、編入生なのだ。さて、どこから説明すればいいか。


「合ってる。コイツは編入生でもある」

「だよね、そうだよね。……ええと、ヴァンさん」

「ヴァンで構いませんよ」

「分かった。……ヴァンに頼みがあるんだけど、さっきの顔もう1回見せてもらえたりする?」


 ヴァンは一瞬ぽかんとして、すぐににこりと笑った。手のひらに魔力を込めて顔を覆う。それだけで変身魔法は成立する。ヴァンは先程までの健康的な人間の顔に戻った。マーサはヴァンの顔をじっくりと見て、小さく天才だと呟き、……ため息をついた。


「イケメンだぁ……。この人魔族なの本当に信じられない。しかもネロが召喚してるって?」

「……あぁ、そうだな」

「いや、ずるいわそれ。え、まさか魔物使いならイケメン召喚し放題だったりするの?」


 マーサはテンションが上がっているのか声のトーンがいつもより一段高い。ネロはマーサがこうまでにイケメンを欲しているとは知らなかった。

 まあ確かにヴァンはイケメンである。美しい顔立ちにスラリとした体格。それでいて動きは機敏で滑らかである。見た目の評価は申し分ないだろう。


「……悪い、多分俺だけだ。たまたまヴァンの翼の羽根を拾ったから召喚できてるだけで、普通は召喚できないと思う」

「ま、そうでしょうね。それだったら今頃教室はイケメンだらけよ。……しかしおかしいと思ったんだよね。ネロは人と仲良くなるのは早い方だけど、今回は早すぎるなと思ってた」


 ……ん? 何の話だ?


「あんたは知らないでしょうけど、午前の演習の終わり女子たちはヴァンの話で持ちきりだったのよ?」

「へぇ」

「あんなイケメンどこにいたんだとか、誰が最初に話しかけるだとか、抜け駆けは許さないだとかいっぱい聞こえてきたわ」


 今度はヴァンが困惑した表情だ。俺を見てきても説明はできない。俺だって分からないよ。女子すげぇな。


「昼休みに絶対話しかけるんだ! って意気込んでる人もいたわ。そしたらいつのまにか消えてるし、ネロとジースと一緒に教室に戻ってくるし、みんな不思議がってたわ」


 違うこととはいえ、女子たちは早々に違和感を持っていたらしい。……思ったより面倒くさいかもしれない。ヴァンが魔族であることを知られると騒ぎになる可能性が高い。これは女子たち全員に説明しておく必要が出てきたな。


「魔族であることは隠した方がいいのよね?」

「……まあ、そうだな」

「だったら適当に設定作って誤魔化しておくわ。……そうね、いっそヴァンも幼馴染にしておくのが無難かしら」


 マーサはひとり納得の表情になった。ヴァンが魔族であることを飲み込めれば、理解はそう遠くなかったようだ。イマイチ手応えはないが困惑した人が減ったのだからよしとしよう。

 さて、次はノーラだ。


「……魔法学校の学生ってことは学生証があるはず。ちょっと見せて」


 ヴァンはギルドカードを取り出してノーラに手渡した。ノーラは手元のそれを色々な角度からじっくり見始めた。最後に裏側を見て、そして満足したのかヴァンに丁寧に返した。


「本物だわ。……ということは本当にヴァンは魔族なのに編入生なんだ。ちょっと信じられない。……しかも地味に認定演習も受けてるし」


 そうなの? とネロはヴァンの顔を見る。ヴァンはドヤ顔に似た微笑みを浮かべていた。……昇級条件はあと依頼達成のみ。さすがに同時とはいかないが、ほとんど変わらないタイミングで五級魔導士になるだろう。まったく凄いやつを召喚したものだ。


「……うん、ようやく理解できた」


 ノーラは何度か頷いてそう呟いた。なんとか理解をしてもらえたようで嬉しい。これで本題に入ることができる。


「うちに加入するってことね」

「ええ、左様でございます。……いかがでしょうか?」

「許可。そもそも断る理由がない」


 あっさりと許可が出た。ヴァンが編入生であることの説明の方が長かっただけに拍子抜けである。まあ、何はともあれこれで説得するのはあと1人だ。

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