加入条件
ヴァンはそう言いながら何かを取り出してネロに見せた。ちらりと見る。それだけで充分理解できた。コイツいつのまにかギルドカードを作っていやがる。……というか魔族でも作れるんだ。
「人間として活動することになるのですからそれは当たり前です」
「……いつ作ったの?」
「昨日作りました」
「あぁ、……そうなの」
「魔界のギルドと同じ仕組みですから取るのは簡単なのですよ」
ヴァンはそう言って胸を張った。さらっと言ったが、魔界にもギルドがあるんだな。……何をするギルドなんだ? 気になるが、それを聞く時間は今ないな。
ネロは差し出されたギルドカードを手に取ってジースに見せた。ジースはどうしてそれを僕に? と顔で言っていた。
「ということでヴァンがパーティに入りたいそうだ。ジースはそれで構わないかい?」
「……? なんでそれを僕に?」
「パーティメンバーだからだよ。俺はパーティメンバーが納得してないのに自分勝手にコイツをメンバーに入れるのは嫌だぜ?」
ジースはにこりと笑ってもちろん構わないと言って親指を立てた。即答である。多分ジースの中では既にパーティに加入することは当然のように受け入れられていたのだろう。こういう時話が早いと助かる。
「あとは先輩方だね。いつもどこにいるんだろ。あんまり知らないな」
「ジースって寮のノーラの部屋がどこか知ってる?」
「残念だけど知らない。パーティメンバーではあるけど、棟が違うから知らないんだ。学年も違うしね」
なるほど、確かにその通りである。レオンはいいとしてノーラはジースに聞けば普段どこにいるか分かると思っていた。当てが外れたか、……さてどうする?
ネロは少し考えこんだ。結論はすぐには出ない。そうしている間に午後の授業の予鈴が聞こえた。昼休みはいつのまにか終わっていたようだ。ネロたちはひとまず教室に戻ったのであった。
「二年のノーラ? ええと、ノーラ・ヴァイスさん? その人なら隣の部屋の先輩だけどどうしたの?」
困惑した表情でそう答えたのはマーサである。帝都第二魔法学校の寮は男女で棟が分かれている。スタッフ寮に住む女子学生となるとネロの知り合いにはマーサしかいない。そのためネロはこの幼馴染に頼ったのである。
幼馴染だけあってノーラへの用事についての説明は簡単に済んだ。ヴァンが一緒にいることの説明もしなければと思っていたが、それは別に要らないとの返事。ありがたい幼馴染である。
「ジースはスタッフ寮だったよね?」
「そうだね、僕もスタッフ寮だよ」
「それじゃあ場所はもう分かるよね。ノーラさんを談話室に呼んでくるからそこで待っててよ」
寮への道中にノーラはそんなことを言い出した。ネロたちはノーラに会えればそれでいいのでやり方はどうだっていい。……とはいえてっきり寮の部屋に行くもんだとおもっていた。それだと何か問題があるのだろうか?
「普通はないんだけどね。私の同室の子が極度の男嫌いなのよ。絶対騒ぎになるから今回は談話室。……いいよね?」
「あぁ、それで頼む。助かったよ」
「お礼は美味しいお菓子で返してもらおうかな」
「……俺のセンスになるがいいか?」
「そうね、期待しておくわ。それじゃあ談話室で待ってて」
マーサは微笑みを残して去っていった。ネロたちはその後をゆっくりと歩く。談話室にノーラを呼んでくるまでに少し時間がある。適当なお菓子を買ってから行けばちょうどいいだろう。
ネロは周囲を見渡す。……少し先の方に団子屋の文字が見えた。うまそうなにおいがするならこの団子屋でいいだろう。近づくと甘くていいにおいだ。
とりあえず人数分の団子を買いネロたちはスタッフ寮の談話室に向かうのであった。出来立ての団子はあたたかくじんわりと重たかった。
談話室に着いた。既にノーラを呼んで待っていたらしくマーサとノーラは空いている談話室の扉にもたれてネロたちを待っていた。
「……え? ネロ、あなたまた魔物を増やしたの?」
「魔物? 何の話です?」
ヴァンを一目見たノーラは困惑の表情だ。なるほど、ヴァンを知っている人が今のヴァンを見るとそう思うらしい。マーサはヴァンを知らないから編入生としか思っていない。その違いがネロにはどこか面白かった。
……ノーラにだけ説明するつもりだったが、マーサも一緒に話を聞いてもらおう。勘違いしたままじゃ可哀想だしな。
「……皆さま、ひとまず談話室の中へ」
ヴァンに促され全員が談話室の中に入る。このまま持ったままだと忘れてしまいそうだ。ネロはテーブルの上に買ってきた団子を置いた。
……誰もそれには手をつけない。ノーラとマーサはそれより説明しろと言いたげな表情だ。……せっかく言われて買ってきたのに冷めちゃうな。ネロは串をひとつ掴んでから口を開いた。
「ヴァン、変身魔法を解いて」
「……かしこまりました」
ヴァンは首筋に爪で傷をつけると顔全体の膜を一気にひん剥いた。これで見慣れたヴァンの顔が露わになる。ノーラはもっと困惑した表情になり、マーサは手で口を覆った。




