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ヴァンの思惑


「へぇ? そうなのか。それじゃあヴァンが魔族であることに気付いた人もいるわけか」

「ええ、いますね。少なくとも数人」


 ヴァンはえらく含みを持たせている。ヴァンの言葉を信じるならば数人の人ならざるものがいるということだ。……といってもネロにはさほど脅威には感じられなかった。目の前にいるヴァンの方がよっぽど恐ろしいのである。


「まあ、そんなことよりも……だ。俺としてはまずその格好について教えて欲しいな」

「……変身魔法のことですね。インビジブルに近いと言えば主様なら理解していただけるでしょう」


 ヴァンはそう言いながら自分の服の袖を捲り上げた。肘のあたりをつねると薄い膜のようなものが浮かび上がる。ヴァンはそれを器用にぺりぺりと剥がしていく。剥がした跡には見慣れたヴァンの肌が、剥がした膜には健康的な人間の肌がそれぞれあったのである。


 魔力を薄い膜のように引き伸ばし皮膚に貼り付ける。膜は魔力でできており自由に色を変えられる。だからそれを例えば健康的な人間の肌にすれば変身魔法の出来上がり。ヴァンのいう変身魔法とはどうやらこういうことのようだ。

 ……というかインビジブルも多分同じ理屈ってことだよね? 再現できそうだな。


「残念ながら逆でございます。インビジブルを汎用魔法にしたものが変身魔法でありますから」

「残念だな」

「……ネロ、インビジブルって何?」

「バニッシュっていう魔物の固有魔法だな。透明になれるぞ」

「え、本当? 本気で誰にも気付かれずに暗殺できるじゃん」


 発想が物騒である。今更ながらコイツをここに呼んだのは失敗だったかもしれない。魔物使いになりたいと言い出してもコイツだけは引き止めた方が良さそうだ。

 ヴァンは剥がした膜をペタンと貼りつける。もう貼りつけた跡がもう分からない。これが変身魔法か。……というかこれ俺も使えるんだよね? 


「ええ、主様もこの魔法は使えますよ。……やり方をお教えしましょうか?」

「いや、いいや。それよりもまだヴァンに教えてほしいことがあってさ」

「……何でしょう?」

「何で編入生なの?」


 ネロはストレートに聞いた。2個目のパンももう食べ終わりそろそろ昼休みが終わってしまう。そもそもこれを聞くためのこの時間である。変身魔法のことを聞く時間ではないのだ。


「……主様、私は主様に召喚された魔物もとい魔族です。故に、私の主たる目的は主であるあなたのためになることです。そこはお分かりいただけますか?」

「……それで?」

「ですが、主様は私を召喚したがらない。理由は悪目立ちをするから、そして頼りすぎると自分のためにならないから。理由としてはそんなところでしょう」


 まあ、間違ってないな。はっきり言ってヴァンは規格外だ。召喚することで変に絡まれるのも面倒だ。それに規格外の力を使って依頼をこなしてもそれは俺の実力ではない。


「そこで召喚されずにこの世界に来ることにしたのです。これなら少なくとも召喚された魔物には思われない。万が一正体がバレたとして、ただここにいるだけの魔物と変わらない。主様への影響はないでしょう」

「……」

「そして主様は今帝都第二魔法学校の学生でいらっしゃいます。あなたの近くにいるためには、私も学生になる方が手っ取り早い。そう考えて編入することに決めたのです」


 そう言ってヴァンは頭を下げた。多分謝罪の意味も含まれてあるのだろう。まあ言っていることは分からなくもない。ただ、一言言ってほしかったというのが本音だ。こんなことなら召喚し倒した方が良かったのかもしれない。


「……にしては目立ちすぎてない?」


 当然の指摘である。ヴァンの思惑では可もなく不可もなく目立たない存在としてネロの近くにいるはずであった。

 今ヴァンはクラスメイト全員を初日で抜き去った強者である。魔族と思うものはさすがにいないだろうが、相当印象に刻み込まれたのは確実である。


「これでも大分手は抜いたのですが……」


 ヴァンは申し訳なさからかうつむいて小さくなっている。大分手を抜いていることはネロにも分かっている。ヴァンが使った魔法は恐らくダークスラッシュ。見た目は派手だが威力は控えめの攻撃魔法だ。威力が高いヴァンパイアエッジを放てばあのスコアの3倍は出ていただろう。下手するとリチャード先生を上回っていた可能性だってある。


 ネロは契約を結んでいるためある程ヴァンの思いは読み取れる。ヴァンがネロのためを思っての行動であることや、騙す意図がないことはよく理解している。

 編入生になった理由も分かったことだしネロはヴァンのその思いを受け入れることにしたのである。念話で伝えるとヴァンの頭はさらに下がった。こうなったからにはヴァンを活用しない方が不自然だ。


「ところでヴァンはパーティ活動はどうするんだ? それは何か考えてるの?」

「主様がよろしければ、主様のパーティに加入しようと考えております」


 

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