規格外
演習が始まった。当初の予定から変わって、まずヴァンの測定から演習は始められた。
測定のルールはネロたちの時と同じ。ヴァンは戦闘スタイルを魔剣士としていたから対象はクレイドールだ。召喚主であるネロでさえヴァンの戦闘を見るのは初めてである。
……とはいえ大体の見当はつく。ヴァンは剣を構えて大きくクレイドールに振り抜いた。クレイドールは衝撃で上に弾き飛ばされた。見た目は中々の威力だ。
「……ほう、ヴァン・ベルモット闇属性、スコア2145」
クラスメイトたちがどよめいた。ネロとしては、まあそんなものだろうと思っていた。……むしろリチャード先生の記録を超えないか心配したくらいだ。ヴァンが本気を出せば4桁は軽く超えてしまう。あれは相当抜いた結果だ。
とはいえこのクラスの最高記録がマーサの463であり、相当にすごいのは確かだ。現にどよめきはまだ収まっていない。
「素晴らしいスコアだ。転入生は例年高いスコアを出すが、これほどは今までにない。張り切っておいてよかった」
「……?」
ヴァンは困惑している。何を張り切ったのかが分からなかったからだ。するとリチャード先生はあるものを収納魔法から取り出した。灰色の手のひら大のそれは地面に落とすたびに土煙が舞う。なるほど、これはおもりのようだ。
「今日の演習は基礎体力演習だ。魔力を使えば身体能力は底上げされる。だがだからと言って身体能力を鍛えないというのも違う話だ」
リチャード先生は手を後ろにやる。グラウンドには既にコーンが並べられている。やる種目は長距離走の類だろう。それだけなら問題はない。問題は先程地面に落とされたおもりだ。
「そこで今日は持久走を行う。先生が設定した一周800メートルのコースを10周してもらう。……あぁ、あとこれだな。これは1個1キロのおもりだ。測定されたスコアの下2桁を削った個数分腕につけて走ってもらう。もちろん身体強化の魔法は禁止だからな」
げっ、という声が聞こえた。800メートルが10周だから合計8キロ。それだけの距離をおもり付きで走るのは中々しんどいものである。
……そして、皆の視線がヴァンに集まる。ヴァンのスコアは2145、下2桁を削れば21。つまり21個ものおもりが腕につけられることになる。……頑張れヴァン。ネロは念話で顔色が若干悪くなったヴァンにエールを送った。
午前中の授業が終わり、ネロたちはバルコニーに来ていた。困惑した表情のジースと疲れ切った表情でテーブルに突っ伏すヴァンと一緒にいるのである。
ネロはいつものようにパンをかじりながらヴァンの回復を待っている。ヴァンなら21キロのおもりなんて訳ないと思っていたが、思った以上に疲れているようだ。
「……お疲れみたいだね」
「ジースさんお気遣いありがとうございます。……疲れますよ、そりゃあ。ジキュウソウって言うんですか? それにあのおもり。補助魔法なしではとても難しい」
ヴァンの口調には少しの怒りが混じっている。ネロの知る限りヴァンは冷静な完璧超人なのでこうした面を見るのは新鮮である。
ちなみに補助魔法を使おうとしているものもいた。確か名前はアルフレッドとか言ったか。リチャード先生はそんなアルフレッドに魔法無効化の効果のあるリングをつけさせ、おもりを倍にしたのである。その瞬間補助魔法をかけようとする皆の甘えが吹き飛んだのは言うまでもない。
「……私の見立てですが、あのリングは中級以下の補助魔法を全て無効化するとんでもない代物です。どうしてあんなものが一介の教師の手にあるのか分かりませんが」
「……そんなにすごいの?」
「ええ、私の変身魔法も恐らく解けてしまう。だからあれをつける訳にはいかなかった」
変身魔法。恐らくヴァンが人間に擬態しているのはその魔法を使ってである。目の前のヴァンは実に人間らしい姿である。肌の色と服装を変えるだけだが、相当な効果だ。ヴァンのことを知っていない限りはヴァンが魔族であることはとても気付けないだろう。
「主様、それだけではありませんよ。変身魔法は相手に自分の正体を疑わせない副次効果も持っているのです。……まあ、変身魔法をかけている人からはバレますがね」




