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転入生


 3日目ともなるとネロもヴァンが影に潜んでついてくることに慣れた。いつものように準備して部屋を出る。例によってヴァンが影に潜むが気にならない。


 今朝は天気がいい。朝日が暖かい光を放っている。今日の午前中はグラウンドで演習をするらしいとジースが昨日ちらりと言っていた。ジースの言う通りなら絶好の演習日和だ。


 いつものように教室へ入る。既にクラスメイト全員が揃っており教室はいつもよりやや騒がしい。ヴァンの存在がついにバレたのかと思ったが、どうも違うようだ。何というか楽しそうな雰囲気である。

 ……理由が分からない。ネロは隣のチャールズにそれとなく聞いてみることにした。


「あぁ、転入生が来るって噂があってさ」

「転入生?」

「あぁ、それもかなり顔が良い男って話だ」


 顔が良い男。ネロにとってまったくどうでもいい話である。顔が戦う訳でもないのにどうしてそんなこと気にするんだ。ネロは口に出さずとも顔でそう言っていた。チャールズは苦笑いである。


「……まあ、顔はどうでもいいか。毎年何人かは来るらしいんだけど今年は特に早いらしい。とにかくどんな奴なんだと今から皆噂してるんだ」


 転入生か。顔はいいとして、確かにどんな奴か気になるな。ネロが呑気にそんなことを考えていると、始業のチャイムが鳴り始めた。騒がしかった皆も一旦静かになる。

 教室の扉が開きリチャード先生と転入生らしき人物が入ってきた。転入生だ。教室全体がざわつく。どうやら噂は本当だったらしい。

 ネロは一番前の席だから転入生の顔をしっかりと見ることができた。その時大声を出さなかったことを誰かに褒めてほしい。


「……突然だが、このクラスに転入生だ。自己紹介を頼む。名前と属性、それから戦闘スタイルを皆に教えてくれ」

「初めまして、私はヴァン・ベルモット。闇属性の魔剣士です。よろしくお願いします」


 ヴァン・ベルモットと名乗るその男はそう言って頭を下げた。教室全体から歓迎の拍手が鳴り響く。驚いた表情のままネロもぎこちなく手を叩く。

 黒髪に血色のいい肌で体格がいい。笑った口元から八重歯が見える。その美形の顔をネロはよく知っている。……間違いない。ヴァンだ。転入生……? どういうことだ?


「……さて、皆も知っての通り座席は名前順で並んでもらっている。それにならえばヴァンの席は3番目になる。だが、それには既に3番目に座っているエレクから順繰りにずれてもらう必要がある。それは非常に面倒くさい。……そこで、だ」


 ざわつく皆が瞬間静かになる。どこかで席替えか? という声が漏れ聞こえた。なるほど、席替えか。つまりこのさい全部変えてしまおうということだ。リチャード先生は全体を軽く見渡しニヤリと笑った。


「……察しがいいな。これより席替えを行う!」


 高らかなその宣言に教室全体が沸いた。席が変わるという単純なことに何が嬉しいのかはネロはイマイチ分かっていない。

 とはいえネロは一番前の席だったから席が変わるのは賛成である。それに皆は席替えに夢中で難しい表情をしているネロなど微塵も気にしていない。この隙にネロは状況をだんだんと受け入れた。詳しいことは後で本人に聞けばいい。ネロはそう結論づけた。


 席替えが終わり教室のほとんどは新しい座席にやや浮ついている。ネロは何ら変わらない目の前の景色と、違和感しかない左の席にため息をついた。


「初めまして、ヴァン・ベルモットです。よろしくお願いします」

「……あ、あぁ。ネロ……・プリズマンだ。…………よろしく」


 ヴァンはにこやかな笑みを浮かべている。本当に何のつもりだろう? ぎこちない自己紹介だったが、見ているのは後ろの席の人だけだ。しかもそれはエレクだから何の問題もない。


「よし、それじゃあ今日からお前たちの座席はそこだ。間違えて前の席に座らないようにな。それじゃあ本日の演習を始める。準備をしてグラウンドに集合しなさい」


 クラスメイトは演習のため準備を終えるとぞろぞろとグラウンドへ歩きだしていた。準備の間からずっと話題はヴァンのことでもちきりである。

 その輪の中にネロは入らない。入ったところで何をしたらいいか分からないからだ。この雰囲気の中でヴァンが魔族だとか、自分に召喚されているとか言うべきでないことはネロには分かっている。

 さすがに違和感が隠せなかったか、いつのまにかネロの横にエレクが歩いていた。


「転入生だってさ。びっくりだよね」

「……あぁ、そうだな」

「ネロはああいうタイプは苦手だっけ? むしろ喜んで絡みに行くかと思ってたけど」


 やはりエレクはごまかせない。他の人なら気付かないがエレクやマーサは普段のネロをよく知っている。だから何かの理由でぎこちなかったらすぐにバレるのだ。


「まあ事情があるんだよ。後で説明する。……そうだな、学校終わりに俺の寮の部屋に来てよ」

「了解」


 段取りがついたからだろうか。ネロはさっきよりも気が楽になっていた。多分今はもうぎこちなくないだろう。グラウンドはもうすぐだ。

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