影に潜む
ネロはドランとヴァンを交互に見る。触ってみる。……どちらも実体がある。どういうことだ? ……直接聞くか。
「……えっと、ヴァンはなぜここに?」
「こうすれば解決すると思いまして」
「……何の話?」
「最初からこうすれば良かったのです。こうすれば召喚を待つ必要も無くなる」
寝ぼけた頭ではヴァンの言っている意味が理解できない。……まあ、いい。ひとまず学校の準備をしないと。ヴァンには悪いが召喚を解いて後で説明してもらうか。
ネロはアダプトリングを使って召喚を解こうとした。表示ではドランがアクティブ状態となっていた。……目の前にはヴァンが立っている。意味が分からない。
「……ええと、俺って今ヴァンを召喚してない。……よね?」
「ええ、そうなります」
「……何でヴァンはここにいるの?」
「主様は2体同時に召喚できればと考えてらっしゃいました。ですから召喚されずに、そのままここへ来ました。これなら召喚魔法を使っていませんから主様は召喚魔法が使えます」
だんだんと頭が冴えてきたようだ。ヴァンの言わんとしていることをぼんやりと理解してきた。要するにヴァンは召喚されずにここへ来たという訳だ。
確かにこれなら2体同時に召喚することが可能である。現に今ネロはヴァンがいるにも関わらずドランを召喚できている。まさにこれがネロが考えていた状況である。
思いついてしまえば何と簡単な話だろうか。召喚せずとも来てくれるなら召喚魔法は不要である。……さすがにうますぎる。何か、何か見落としがあるはずだ。
「……今ってさ、ヴァンは召喚されてないんだよね?」
「ええ、そうです」
「それって、魔物が普通にここにいるのとどう違うんだ?」
ヴァンはただにこりと笑った。やはりそういうことらしい。ヴァンは召喚されずにここに来ている。確かにこの方法なら2体同時召喚が可能だ。幸いこのことはほとんど誰にもバレていないようだ。バレていたら今頃大騒ぎである。
「昨日ちらりと申し上げましたが、私は影の取り扱いに長けておりまして、影に潜むのは造作もないことなのですよ」
……何を言っているか分からないが、恐らく得意だとか簡単だとかいう風なことを言っているのだろう。確かに影に潜むことができるなら、バレずにここへ来るのは簡単である。
そういえば、昨日ヴァンは俺に質問をした後召喚を解いてくれと言っていた。用事があると言っていたが、これがしたかったのか……?
ネロは懐中時計で今の時刻を確認する。いつも起きる時間からかなり時間が経ってしまった。この時間なら急がないと遅刻である。ヴァンには悪いがネロは急いで準備を始めた。
そういえばもう既にキダルの姿がない。キダルはいつも朝コーヒーを飲むが、既ににおいがしない。随分と前に部屋を出ているようだ。……俺も早く出ないと。
ネロは準備を終えて部屋を出ようとした。立ち上がるとヴァンはネロの影に潜んだ。ヴァンの姿は何も見えなくなった。……こんな風に潜んでいるのか。これなら中々バレないだろう。
……というかコイツついてくるつもりか?
『私は影に潜んでおりますからお気になさらず』
そう念話で言われても気になるものは気になるのである。試しに索敵魔法を使ってみる。……魔物を示す反応はない。どういう理屈か索敵魔法の感知を逃れているようだ。
どうして索敵魔法で感知できないのか、そもそも何がしたいのか。時間をかけて何がしたいのか聞き出したいところだがそんな時間はかけらもない。ネロはひとまず何も気にせずに学校を目指して部屋から駆け出した。
バレて騒ぎになるかもしれない。頭の端でそう考えながらネロは過ごしたが、特に問題なく一日が終わった。今はその帰り道である。多分ネロは一日ずっとぎこちなかったと思う。随分と疲れた気がする。これも全てヴァンのせいだ。
『……これで満足したか?』
『ええ、満足できる収穫がありました』
それはそうだろう。そうでないと困る。大人しく影に潜んでいるのかと思っていたら大間違いだったのだ。ただでさえ変に緊張しているのに、ヴァンから念話であまり絡みのないクラスメイトに話しかけて欲しいと言われたのである。
さすがに目的が聞きたかったがヴァンは確認したいことがあるので、としか言わない。疑問でしかないがさりげなく他愛ない話をしたのだ。これで満足していないと言ったら多分俺はキレていいはずだ。
次の日、またヴァンは影に潜んで学校までついてきた。ただこの日はネロにあれこれ頼むことはしなかった。何をしているのか気になって聞いてみたが、やはり教えてくれない。……せめて目的が聞きたいところだがそれも教えてくれなかった。
さらに次の日、またヴァンは影に潜んで学校までついてきた。どうやら自分で好き勝手に何かをやっているようだ。聞いても教えてくれないからネロは気にしないことにした。寮に帰って姿を見せたヴァンは満足そうに笑みを浮かべていた。……なんだか嫌な予感がした。




