悪魔のひらめき
この際だ、知りたいこと全部聞いてみようか。レオンのその提案からヴァンを中心とした一種の座談会が始まった。ヴァンは魔法についてとても詳しく質問に全て的確に返答していた。時間は飛ぶように過ぎていった。窓から入る光はいつのまにか赤く染まっている。
「……もうこんな時間か、そろそろ終わりにしよう」
「いやぁ、しかし談話室でこんな有意義な話ができるとは思わなかった。……ところで僕はいて良かったのかい? 一応違うパーティに所属してるんだけど」
充実した表情をしていたキダルは今更そんなことを言い出した。そう思っているならそもそも連れてこない。別にパーティが違えばバチバチにライバルであるという気持ちはネロたちにはない。そもそもネロにとってキダルは同室の先輩である。
「……それは気にしたことがねぇな。というか最早キダルもパーティってことでいいんじゃない? 申請するか?」
「申請すればパーティの移籍はできるの?」
「ちょっと面倒だが、手順を踏めば可能だ」
「ありがたい話だけど、それは遠慮しておきます。僕が抜けたらパーティが3人になっちゃいますし」
少しだけ期待した視線を送ったネロだったが、キダルにはそのつもりはなかったようだ。単純に面倒だというのもあるだろうし、パーティ自体にも不満はないのだろう。残念だが、仕方ない。
「ま、それもそうだな。気が変わったらいつでも言ってくれ。歓迎するよ」
レオンは別に諦めるつもりもないようだ。キダルは若干苦笑いである。まあこんな風に協力してくれるなら別に同じパーティじゃなくてもできる。これから先も頼りにしていくことになるだろう。ネロは心の中でこっそりそう思った。
これで今日やることは全て終わりである。次回の活動日を決めてその日は解散となった。レオンたち3人はそれぞれの寮に戻り、キダルは用事があると言ってどこかへ行ってしまった。ネロはひとり自分の部屋に戻った。寝るにはまだかなり早い。
「主様、今少しよろしいですか?」
ヴァンが影からたずねてきた。ヴァンは魔法、……というよりは体質で影に潜むことができるのだという。先程の談話室で召喚を解こうとした時にそう言ってネロの影に潜んでいたのだ。
召喚し続けてもデメリットがないから放置していたが、どうやら何か目的があったようである。何だろう、と首を傾げながらネロはヴァンに大丈夫、とだけ言った。……何をするつもりだろう。
「主様に質問がありまして。……主様は私を召喚するのは少し抵抗がありますか?」
「……ていこう?」
「契約を結んでますからある程度は主様の考えが分かります。……主様は私の存在を隠したいという気持ちがあるのでは、と思いまして」
あぁ、そういうことか。確かに俺はヴァンの存在をオープンにはしていない。大きな理由として騒がれたくないというものがある。恐らく、……いや間違いなくヴァンは話題になる。
恐らく俺にはヴァンを召喚した人というイメージが付きまとう。間違っていないが、自分という存在が無くなるようなそんな気がするのだ。
「……つまりあくまでも主体は主様であると」
「……しゅたい?」
「メインと言った方が分かりやすいですか?」
「ありがとう、そういうことか。……うん、まあそうだな」
「しかし私としてはもっと召喚してもらいたい訳なのです。その方が今よりももっと主様の役に立てるでしょう。……色々気になることもありますし」
ヴァンをじっと見つめる。ネロもまたある程度ヴァンの考えは読み取れる。気になること……は分からないが、もっと役に立ちたいというのは恐らく本心だ。召喚すればそれが達成できるのもまた正しいだろう。
しかしだからと言って他の魔物をおろそかにもできない。……魔物使いになってから魔物を増やすまでちょっと早まったかなぁ。せめて2体同時に召喚できれば話は変わるんだけど。
「……主様の考えは分かりました」
「……ん?」
「質問できて良かった。それでは召喚を解いてもらって構いません」
ヴァンは納得した表情である。何に納得したのか分からないが、多分ヴァンの中で解決したんだろう。深くは聞かないでおく。
ネロはヴァンの召喚を解き、ドランを召喚した。ドランは楽しそうにベッドの上で転がっている。頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。多分こうされるのが好きなのだろう。
……思えばネロは自分の魔物のことを何も知らないかもしれない。何をされるのが好きだ、何が嫌いだ。得意なことは何だ、苦手はあるか。知らなければならないことはたくさんだ。
召喚できるようにしたことは今更取り消せない。魔物使いとして成長していくためにも、もっと魔物を知らないといけない。ネロは誰に言うわけでもなく心に決めたのであった。
そして一日が終わり、また次の日が来た。授業がある日だからアラームをかけている。だがアラームが鳴る前にネロは起こされた。やや雑に体が揺れる。揺らしてくるのは誰だ? 細く目を開けて様子を見る。
「…………ヴァン?」
「主様、おはようございます」
頭がぼうっとしている。いつの間にヴァンを召喚したんだっけ? そんなことを考えながらネロは目を擦ろうと左手を動かそうとした。何か固いものに触れた。枕元では気持ち良さそうにドランが寝息を立てていた。




