種族の違い
黙り込む皆にヴァンは続いて魔法の説明を始めた。ヘブンズゲートは光属性の上級魔法。展開した魔法陣から突き上げる強烈な光の魔力で相手を葬る魔法なのだという。魔法陣で発動がバレるので拘束系の魔法と併用して使うことが多い。そんなことをヴァンは説明に加えた。
……だが皆はそれをあまり理解できていない。話をあまり聞けていないと言った方が正しい。どうしても違和感が拭えなかったのだ。レオンがネロを見ている。お前が聞け。視線がそう言っていた。
「……ええと、ヴァン。それってヒカリが習得している魔法の話だよね?」
「ええ、そうです。……主様それがどうされましたか?」
「いや、イメージというかなんというか。そういう魔法ってもっと天使! みたいな魔物が使うんじゃないの?」
ヴァンはまっすぐネロの顔を見ていた。ヴァンはネロの考えを読み取れる。だからネロは頭の中で自分の思う天使のイメージを作り上げた。それでようやくヴァンは何が引っかかってるのかを理解した。前提がまず違っていたのだ。
「主様が今考えている魔物は天使族の一種ですね」
「天使族? よく分からないけど多分そう」
「確かに主様の考える通り、ヘブンズゲートは天使族が受け継いでいる魔法です。そしてバグライトは天使族です」
「……虫だよ?」
「ええ、天使族です。天使族にも色々いるのですよ」
ネロはバグライトを見た。デカいテントウムシだ。魔物であることはもちろん、虫の一種であることも見たら分かる。……だがどう見ても天使にはならない。天使族って……なんだ? 他を知る必要がありそうだな。
「ヴァンは?」
「私は悪魔族です」
「……クロは?」
「悪魔族です」
「ドランは?」
「ドランは……、恐竜族です」
……また分からなくなった。闇属性なら全員悪魔族なのかと思っていたのにドランは違った。属性で分かれているんじゃなくて、何か明確な分類があるんだろうな。
しかし悪魔族か。天使族と悪魔族ってイメージ的には仲が悪そうだよね。……どうなんだろ?
「天使族の方がどう思っているかは知りませんが、仲は悪くないと思いますよ。私の棲家近くにも天使族の魔物は何種か棲んでいますし」
なんだそういうものなのか。ネロは粗方理解して何度か頷いた。ここでようやく周囲の様子を見る。……ん? 何か全員渋い表情……?
「あぁ、……ネロ。ちょっといいか?」
「……どうした?」
「今回俺はギリギリついていけたんだが、気持ち主語を言うようにしてくれるか?」
「……??」
「ネロと……ヴァンだっけか? その間では会話が成立していても俺たちには何のことだかさっぱり分からない。せめて何の話をしてるか分かるよう主語を言うようにしてくれ。特に後半は何を言ってるのか全く分からなかった」
言われてネロは自分の発言を思い返す。……確かにそうかもしれない。ヴァンには伝わるからと省略していたが、そもそもこの会話はここにいる皆の違和感を解消するためのものである。ネロだけ理解してもあまり意味はないのだ。
レオンの言うことを理解したネロは改めて今理解したことを皆に説明した。何度か頷き、渋い表情の人は誰もいなくなった。
「それじゃあ俺からひとつ質問。ヘブンズゲートは天使族なら使える魔法だというが、どの種族にもそういう魔法ってあったりするのか?」
「大抵習得しているかと思います」
「悪魔族はどういう魔法が?」
「悪魔族は拘束系の補助魔法になります。私ならシャドウバインド、影で相手を拘束する補助魔法ですね」
ヴァンはさらりとした口調だ。皆の視線がヴァンの影に集まる。……集中して見ていないから誰も気付かなかった。手のようなものがゆらめくようにうごめいていた。……これがシャドウバインドか。影から拘束されるなんて恐ろしい魔法だ。
「それってクロやドラン、……それに俺も習得してるんだよね?」
「ええ、形は違えど全員習得していますよ。魔物使いはそういう戦闘スタイルですしね。……ただ、すぐには使いこなせないかと。慣れれば非常に便利な魔法ですよ」
ネロの足元、影の中でヴァンの手がうごめいている。無論動かしているのはヴァンでありネロではない。どうやら範囲は自分の影だけではないようだ。
後で詳しく教えてもらうが、多分視界に入っている影なら自由に使えるのかと思われる。……すげぇな。なんか自分が悪魔になった気分だ。
ネロは幼い時からヴァンパイアに憧れに似た感情を抱いている。だからなんだかヴァンパイアに近づいた気がして嬉しく思うのだ。自然とその表情は緩んでいる。……はたから見れば嫌な笑みである。ノーラはこっそり、レオンは露骨に引いていた。




