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タイミングがなかった


 レオンは今日一番の怪訝な表情だ。ノーラは一瞬だけ怪訝な表情になり、すぐに思案顔になった。心当たりがあったからだ。数秒考えて答えを出す。あぁ、そうだ。あれはネロの魔物だったか。


「それって……あの魔物?」

「うん。どうも知ってるみたい」

「すごいね。あれって確か闇属性の魔物でしょ? 光属性にも詳しいんだ」


 ノーラは納得の表情を浮かべた。レオンは依然として怪訝な表情のままである。可哀想ではあるが、いい流れが来ているのでひとまずスルーさせてもらう。最優先事項は場所を移すことなのだから。


「……となると、移動した方がいい?」

「できれば」

「……今の時間なら寮の談話室が空いてるはず」

「よし、移動しよう」


 キダルの提案に乗って5人はスレイブ寮の談話室へと場所を移した。施錠できるタイプの個室で防音も割としっかりしているというのはキダル談である。

 1人がけのソファと2人がけのソファが2つずつ。そしてテーブルが真ん中に置いてある。実にシンプルなつくりだ。

 レオンとノーラはそれぞれ手前と奥の1人がけのソファに座った。それを見てキダルとジースが並んで座る。となると残るのは2人がけのソファだ。恐らくヴァンの分も気を遣ってくれたのだろう。ありがたくネロは広いソファに座った。


「ええと、俺はまだよく分かってない。ネロの知り合いにソーラレイを知ってるものがいる。という認識で合ってるか?」

「まあ、合ってる」

「……しかし、人でなく? まさか魔物じゃないだろうし想像もつかないが」


 相変わらずレオンは怪訝な表情だ。まあヴァンを知らないなら無理もないだろう。説明するよりも召喚した方が早い。ネロは頭の上のクロを抱えるとソファの空いた席に置いた。クロはソファの上で気持ち良さそうだ。頭をひとなでしてネロはアダプトリングのつまみを回した。

 召喚が解かれクロが消え、その場にヴァンが召喚される。唯一ヴァンの存在を知らないレオンは固まって上手く言葉を発さない。……まあ、驚くよね。


「はじめまして、私ヴァンと申します」

「……し、喋った⁈」


 レオンのその声は裏返っていた。……毎度ヴァンが喋るとみんなこの反応である。最早慣れた。喋る、というか意思疎通ができる魔物はそれだけ珍しいのだ。そういえば魔物じゃなくて魔族だと言ってたっけ? 魔族と魔物の違いはあんまり分からないけど。


「……ネロ、その……召喚し続けて大丈夫なのか? 魔力マナが枯渇したりしないのか?」

「それは俺とヴァンで共有してるから大丈夫」

「共有⁈ もう何から何までとんでもねぇな。悪いが俺はお前をそこまでの奴だとは思ってなかったよ。……というか」


 ひと通りリアクションをした後で違和感に気付いたのだろう。レオンは周囲をぐるっと見渡した。リアクションをしているのはレオンだけである。ということはつまりそういうことである。


「この魔族のことを知らないのは、……俺だけ?」


 ネロはヴァンの存在を隠している。とはいえパーティの面々には隠すつもりはない。だから必要を感じれば迷わず召喚するし、その関係でキダル、ジース、ノーラは知っている。……が、レオンは知らない。理由は簡単。タイミングがなかった。それに尽きる。


「隠してた訳じゃないんだけど、タイミングがなくて」

「それならいい。確かに俺もこの魔族を誰かに話すってなったらタイミングはかなり考える。気持ちは分かる」


 レオンは怒ることをせずに、逆に理解を示した。ありがたい話である。どうやらレオンは想像以上に柔軟な人のようだ。……とはいえこういう人の方が怒ると相当におっかないことが多い。ネロはノーラをチラ見して2人を怒らせないようにしようと心に決めた。


「……あと後出しであれだが、何となくは気付いてた。召喚してないやばい奴がいそうだなって」

「……というと?」

「ヴァンパイアエッジだっけ? 闇属性の中々威力がある攻撃魔法を使ってただろ? あれは中々見かけない珍しい攻撃魔法だ。元々習得していたよりは魔物由来で習得した方がしっくりくる」


 なるほど、それで召喚してないやばい奴がいるだろうと予想していたのか。召喚した魔物から習得できた魔法ってのは確かに珍しいのかもしれない。……というかよく考えたらヴァンパイアエッジってあからさまだな。ヴァンパイアって既に名乗ってるじゃん。

 まあ、予想されるくらいなら別に問題ないや。これから先ヴァンに頼る場面は出てくるだろうし、遅かれ早かれバレる話。それよりも話を進める方が先だ。念話で合図を送り、ヴァンは黙って頷いた。


「まず、ソーラレイは光属性の攻撃魔法となります」

「本当に‼︎」


 ノーラから歓声に似た叫びが上がった。ノーラにとって攻撃魔法の数を増やすことは念願である。ヴァンがまずそう断言したことでノーラの表情は一気に晴れた。……しかしすぐに困惑することになる。ヴァンの話はこう続いた。


「ただ、魔法としては少しばかり特殊な分類になりますね」



 

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