いざ召喚……!
いきなりのことでネロは言葉に詰まった。なにせ祈りに来た人だと思っていたのだ。教会の人だったとは思っていない。……とりあえず許可取りしないと。そもそも庭ってどこだ?
「……庭が、綺麗な花があると聞いて」
「ええ、ございます。見て行かれますか?」
彼女は柔らかな笑みを浮かべたまま奥へ向いた。ついて行けば庭に行けるらしい。黙ってついていく。
礼拝堂の奥に通路があるらしい。やや埃くさいその場所を歩くと急に視界が開けた。なるほど、ここが庭か。確かに綺麗だ。ネロは息を呑み、クロは楽しそうな歓声を上げた。
建物を前から見るとこの場所は分からない。15メートル四方はある大きな庭がそこにあったのである。そこは赤や黄色、青といった色とりどりの花で埋め尽くされていた。召喚場所としては申し分ない。きっと喜ぶだろう。……もっともこの景色を壊してしまう可能性もある。そうなれば何と詫びをしていいか分からない。
「……いい景色でしょう?」
「あぁ、素晴らしい景色だ。……ええと、要件なんだが」
「何でしょう?」
彼女はまっすぐにネロを見た。正直言いづらい。自分が言われた立場なら多分に断る。ネロでさえここで召喚したいと言っていいんだろうかという思いの方が強いのだ。
……それにネロが召喚する訳でもない。召喚するのはノーラである。どうしてここにいない人のために許可取りをしてるのだろう。そんな疑問は顔の内側に隠した。取ってこいと言われたのだ。やらねばなるまい。
「……ここで魔物を召喚しても?」
「構いません」
「……え? いいの?」
「ただし条件がひとつ」
条件を出された。まあ何の条件もなしに許可が取れるなんて思っていない。むしろそのひとつの条件をクリアすればこの場所を使ってもいいのだ。ならばクリアするしかない。……何を言われるか不安だな。
「召喚しようとしている魔物使いの方をここに呼んで来て下さい」
「へ?」
「あなたが魔物使いであることはその魔物を見れば分かります。良い魔物使いであることも。あなたならば許可は出せましょう。……ただ、あなたの紹介でも見てもいない人がこの場所を使うのは許可できません。ですから連れて来て下さい」
彼女の言葉はえも言えぬ圧があった。どうして召喚するのが俺じゃないと分かったかなんて聞く暇もなくネロはノーラめがけて駆け出した。
出入り口では3人がのんびり談笑している。残念ながら説明している場合ではない。ノーラ来て! という叫び声と共にノーラを強引に連れて行く。なすがままに引きずられノーラも教会へと消えた。残された2人はぽかんとしていた。
「え、許可は取れたの?」
「そのために呼んだ」
「……? 私を?」
ノーラはネロに引っ張られながら教会の中をのんびり歩く。なんとなく嫌だなと悪い予感がしていた。まあ召喚するのは私なのに許可を取るのをネロに投げた罰なのかもしれない。……怒られるかなぁ。
「……その方ですね」
「……ええと、ノーラ・ヴァイス……です」
聞かれているか分からないが一応自己紹介をしてみる。目の前にはやや歳を食った女性。表情は柔らかいのにどこか圧がある。……数々の修羅場を潜ってきたに違いない。お願いだからそんな圧で見ないでほしい。
「自己紹介ありがとう。あなたが魔物を召喚したいという魔物使いですね」
「……はい」
「どうしてここを?」
……圧が増えた。理由なんてとてもしょうもないのに。……正直に答えるしかない。……言いたくないなぁ。
「……ええと、召喚したい魔物はバグライトなんですけど。実は初めての召喚で、……せっかくなら良い場所で召喚してあげようと思って。それでここに綺麗な花があると聞いて。……許可して……もらえたら……いいなと」
圧がきついのとあんまり言いたくない気持ちとが合わさって自分でもしどろもどろなのが分かって辛い。目を見て言う方が誠意があることなんて分かってるけど圧が怖くて目を合わせられない。……情けないや。
「なるほど。それではなぜこの方が許可を取りに来たのです?」
あぁ、やっぱりそれが聞かれるか。そんなもの、自分では言い出せなかった以外に理由なんて、……ない。でもそれを口に出すのは違う。…………はぁ、もう素直になろう。
「……ごめんなさい」
「私ではありません。謝罪ならこの方に」
「……ネロ、ごめんなさい」
耐えきれないほど空気が重い。ええと、どうしてこうなったんだ? ネロは記憶を辿る。……だめだ、分かんないや。なんでノーラが怒られてるのかも、どうして俺に謝ってるのかも分かんない。
誰かこの空気変えてくれないかな。あぁ、そうか。俺がノーラだけ連れて来たのか。うん、俺のせいだな。
目の前のノーラはしょぼくれたのか小さくなっている。ネロはこっそり横目で様子を伺ってみる。……あれ? 笑ってる?
「……ふふ、少々意地悪なことを言ってしまいましたね。あなたたちは庭で召喚したいのでしょう? こちらへどうぞ」




