人だかりの理由
門へと近づくと人だかりの理由がなんとなく分かった。集まっている人のほとんどは修繕屋ばかりである。そして門の右部分は大きな衝撃でも受けたか、レンガが崩れて穴になっていた。
「申し訳ない、今ちょっと門が通りにくくて」
門番が頭を下げながらもネロたちの確認を怠らない。いつも通り確認を済ませて中へ入る。……こともできるが、さすがに無視はできない。ネロたちにも何かできることがあるだろうか。
「何があったんです?」
「いや、実はこの辺りで魔物が暴れだしたと通報がありまして。それで討伐のために魔導士さんに何人か来ていただいたんです」
「魔導士が来たと」
「幸い魔物は無事に討伐できたんですが、魔導士さんの魔法が暴発しまして。それで壁がこれだけ凹んでしまったんです」
レオンは苦笑いを浮かべた。門番は疲れからかややげっそりしている。もしかするともう何度か説明しているのかもしれない。まあそういうことなら問題ないのだろう。ネロたちは門番に頭を下げながら魔導士ギルドへと戻ったのである。
――
魔導士ギルド
――
「さて、ギルドに依頼の報告をしてくる。その辺で待っていてくれ」
以前と同様にレオンはさっさとどこかへ行ってしまった。報告をどうやってしているのか地味に気になっていたが、仕方ない諦めよう。帰りの道中で気になるって言えばいいんだろうけど、忘れちゃうんだよなぁ。
「ねぇ、魔物の召喚に適した場所はどこ?」
「場所? どこでもいいと思うけど」
「どうせならいい場所でやってあげたいじゃん」
そうは言ってもいい場所なんてネロは知らない。今までを振り返る。……クロは西の森の前、ヴァンは寮の屋上、……ドランも屋上か。はは、2種類しかないや。
残念ながらネロの経験は役に立たなさそうだ。それでもなんとか考えてみる。召喚しようとしている魔物はバグライト。何となく外の方が良さそう。……うーん。
「……屋上かな」
「まあそうなるか。結局あそこになるのね」
ノーラは少し不満気だ。何にも浮かばないんだから仕方あるまい。そんな話をしているとレオンが戻ってきた。
「そういうことなら俺に心当たりがあるぞ」
「え? それ本当?」
「本当だ。おっとその前にこれを渡さないとな。今回の報酬金は4000Gだ。1人1000Gだな」
そう言いながらレオンは全員にコインを配り始めた。渡されたのは金貨1枚。まあ前回はヒュージスライムの討伐が混じったものだからGランクの依頼ひとつならこんなものだろう。それよりもレオンの心当たりの方が気になる。
「心当たりがあるってだけでその場所を使っていいかなんて知らないぞ。それでもいいか?」
「全然大丈夫。ダメだったら屋上にすればいいんだし」
「それならいい。……案内しよう」
レオンは魔導士ギルドを出てから東へとどんどん歩き始めた。ついていくこと10分。レオンはある建物の前で立ち止まった。古い木造の教会である。ここが心当たりのある場所なのだろうか。
「……ここだ」
「教会が……召喚に適した場所なの?」
「まあな。ここには大きな庭があってな。綺麗な花を育ててるんだ。バグライトもそういうところで召喚されたら嬉しいんじゃないかな」
レオンは照れ隠しかいつもよりやや早口だ。ノーラは満面の笑顔である。確かにバグライトは虫であり、花がたくさん咲いている場所が似合う。レオンの心当たりは信用できる。そんな感想がネロの頭に刻み込まれた。
「最高じゃない。ネロ許可取ってきて」
「……え? 俺?」
「魔物使いの召喚に一番詳しいのはネロ。説明するのはネロの方がいい」
隣でレオンが何度も頷いている。これで役目が終わったと言いたげな表情だ。ネロとしては許可取りは当然レオンが行くものだと思っていたから戸惑いが隠せない。……どうやら完全に押し切られたようだ。こうなれば腹を括るしかあるまい。
「……期待はするなよ?」
「そうね、レオンの心当たりくらい期待してるわ」
最大限に期待されているようだ。さっきはダメだったら屋上でもと言っていた気がするが、もうノーラの心はここで決まっているらしい。気付かれないくらいの小さなためいきを残してネロは教会のボロい戸を押した。いやに軽く手応えはなかった。
中は思ったよりも綺麗だ。木でできた座席が整然と並べられ奥に十字架が掲げられている。おや、先客がいるようだ。十字架の前で座っている人がいる。……祈っているのかな?
祈っているのなら邪魔をするべきではない。それにネロの目的は魔物を召喚する場所として庭を借りていいかの許可取りである。祈りの邪魔をすることは本意ではない。他に誰かいないのかとネロは視線をさまよわせた。……誰の気配もない。
試しに索敵魔法を使ってみる。こうすればこの場所に人が何人いるのか分かる。この教会はどれくらいの大きさだろうか。試しに範囲を10メートルに指定して目をつぶってみる。
……赤いシルエットが1つに青いシルエットが5つ。このうち赤のシルエットと青のシルエット4つはネロたちだ。となると、……あれ? シルエットが近づいて来ている?
ネロは慌てて目を開けた。黒いローブに十字架のネックレス。そして大人の女性ほ余裕が漂う微笑み。彼女は柔らかな笑みを浮かべすっと頭を下げた。
「……初めましてのお客様ですね。教会へようこそ、歓迎いたします」




