バグライト
舞い上がった土煙が晴れた。バグライトが足場にしていた岩は砕け散っている。岩のかけらでバグライトの姿は見えない。……飛び立ったなんてことはないはずだ。近づいて様子を見る。……なるほど、岩のかけらの間でバグライトがひっくり返っていた。討伐完了である。
一応確認とレオンはバグライトの死体を表に戻す。発光は既にしていない。間違いなく討伐できていることを確認してレオンは死体を拾い上げた。
「……ええと、召喚には魔物の一部がいるんだったよな。どこでもいいのか?」
「そのはず。水晶の入れ物に入れる時に小さくなるから大きさも気にしなくていい」
「だそうだ。せっかくだしノーラが剥ぎ取るか?」
「そうね。もらうわ」
ノーラはバグライトを受け取るとナイフを取り出し慣れた手つきで剥ぎ取り始めた。見渡す限り魔物はいないので無警戒でも安全である。一応と発動した索敵魔法には何も引っかからなかった。
派手に戦闘したからか警戒して魔物たちはどこかへ行ってしまったのだろうか? それなら安全に作業できる。そんなネロの様子をレオンは見ていた。
「……ネロ、もしかして今索敵魔法してるのか?」
「してるけど、それがどうした?」
「偉いなと思ってさ」
「偉い?」
「あぁ、偉い。魔導士になりたての人ほど索敵魔法を甘く見る。だがそれはかなり危うい。迫ってくる魔物の存在に気づかなければ未来はない」
なるほど、そういう意味で偉いね。確かに魔法学概論でも大体の人は使おうともしてなかった。使うことができる上にバニッシュがこっそり潜んでいたにも関わらず。……まああの経験があるから索敵魔法を使うようにしてるんだけどさ。
「ちなみに聞くんだが」
「ん?」
「索敵魔法を使ってるってなぜ分かったんだ?」
「……? それ以外に目をつぶる理由はないだろ?」
あ、と思わず声が漏れた。そんなことも気付かないなんてちょっと恥ずかしい。ネロはバツが悪くなってレオンから目を逸らした。ジースが下を向いているのがちらりと見える。……多分ジースは今発動させているな。
索敵魔法は魔力を使って人間や魔物をシルエットで感知する補助魔法である。目で見るよりも多くの情報が得られるため発動中は目をつぶっているのだ。
魔物が近くにいるかもしれない状況でただ単に目をつぶる人はいない。だからレオンはネロが索敵魔法を使っていると判断したのだ。
「索敵魔法は使えば使うほど慣れてくる。熟練者なら瞬きの間に欲しい情報を得る」
「……レオンもか?」
「ははっ、だったらいいんだけどな。残念ながら俺もそこまでではないよ。ジース、そろそろ目を開けておけ」
「! ……はい」
不意に声をかけられジースは驚き、そして照れ隠しのようにまた下を向いた。ネロにだって使っているのが分かったのだ。レオンには筒抜けである。
そんな話をしているとノーラの剥ぎ取りが終わったようだ。手元には2枚の羽がある。透明で綺麗だ。予想以上に時間がかかったからかノーラは渋い表情である。
「どこでもいいって言うから羽にしたのが間違いだった。ものすごく硬くて切りにくかった」
「足とかにした方が早かったかもな。ま、とりあえずこれで依頼達成だ。そしてお前も召喚する魔物を手に入れた。とりあえずはそれを喜ぼうぜ」
「……まあね。すぐに帝都に帰ろう」
こうしてネロたちは帝都へ向かって帰るのであった。帰りは来た道を引き返すだけだから楽である。魔物のいない道を選んで歩きながらネロは残った依頼について考えていた。
残った依頼はアロエ草の納品依頼。ありふれた薬草であり、どんな見た目なのかももう知っている。だから帰りの道中で見つかるかもと目を光らせていたのだ。……しかし収穫は残念ながらない。思っているよりもありふれたものでもないのか? ネロは少しだけ首を傾げた。
「……? 何かあったのかい?」
「アロエ草ってどこにあるんだろと思ってさ。ほらアロエ草の納品も俺たちの依頼だろ?」
「アロエ草は群生地があるんだ」
ジースの代わりに後ろを振り返ったレオンがそう答えた。どうやらアロエ草はそこかしこに生えているわけではなく特定の場所でしか採れない薬草のようだ。ジースに群生地とは何かの説明をさせてネロはようやくそれを理解した。
「今から行ってもいいが、方向が真逆だからな。ネロも知ってると思うが依頼の期限は2週間。まだあと10日ほどある。そう急ぐ必要もない」
なるほどとネロは納得の表情を浮かべた。既に一行は帝都近くにたどり着いていた。ここから帝都へと繋がる門が見える。……なんだろう? 門には人だかりができていた。




