ジースの頑張り
氷のかたまりがハナビラトカゲの頭目がけて落ちていく。その氷塊は大ダメージを与えるには充分すぎるほどに大きかった。ギェという情けない声と共にハナビラトカゲは潰れるように倒れ動かなくなった。討伐完了である。
「まだ……、バブルクラッシュ!」
ハナビラトカゲはもう1体いる。同じ要領で倒すためジースはすぐさまバブルクラッシュを放った。そして流れるようにアイスボムを展開させる。
この一連の流れは他ならぬレオンがジースに助言したものだ。言ってからすぐに実現できるあたりジースは将来が有望なのかもしれない。……だがそれを生かすも殺すもジース次第だ。他の3人に見向きもせず戦闘する姿は危うい。
「……全部1人でやるつもりか?」
「まあ、できなくもないよね。厄介とはいえ低級の魔物だし」
「ネロはジースと仲がいいのか?」
レオンは突然そんなことを聞いてきた。理由が分からないネロは戸惑いで眉をひそめた。視線の先のジースはハナビラトカゲ目がけて杖を振り下ろしていた。
「……レオンと同じくらい?」
「なるほどね。今からちょっと手荒に止めるが、別にいいよな?」
そう言ってレオンは戦闘中のジースに向かって歩き始めた。ジースはその頃ハナビラトカゲを討伐しきり、そのままの流れでバグライトをも討伐しようとしていた。……手荒にって何をするんだろう? あ、殴った。
「……合流するよ」
ノーラは呆れた表情でレオンを追いかける。よくあることなのだろうか? レオンが殴ったことには特にリアクションはない。多分レオンの言う手荒にとは殴ると同じことなのだろう。ネロは強引にそう解釈してノーラの後を追った。
「お前最初の攻撃って言っただろ。何全部倒そうとしてる」
「……ご、ごめんなさい」
「分かったのならいい。バグライトは連係して討伐するぞ。いいな?」
ジースは無言でコクコクと頷く。目元に涙が見えた気がする。どうやらレオンは結構力を入れて殴ったようだ。何もそれほど力を入れなくても。ネロはこっそり苦笑いを浮かべた。
「……近くで見ると大きいね」
ノーラはまじまじと岩の上のバグライトを見ていた。バグライトは体長が20センチ以上ある大きなテントウムシである。羽根に発光部位を持ち日中でも夜間でも変わらず常に光を放つ魔物だ。
近くにいた魔物が派手に討伐されたのにその場をまったく動かない。相当図太い性格をしているらしい。警戒心もあまり無いようでノーラの熱い視線をまったく気にかけていない。これは討伐が結構楽な方なのかもしれない。
「警戒はあまりしていないか。その方がやりやすいから良かった。今は大人しいが飛び回ることがある魔物だ。できる限り飛ばさせないように慎重に戦っていくぞ」
「最後は私に任せて。せっかく召喚する魔物なんだから自分で討伐したい」
ノーラはやる気満々だ。トドメを刺すつもりでいるようだ。元々そのためにわざわざ依頼を変えたのだ。討伐したバグライトの一部で召喚することに違和感はない。
……ただ、魔物からすれば嫌ではないだろうか? せめてトドメは他の人が刺した方が……。まあ余計なお世話なのかもしれない。ネロは口に出そうとした言葉をそっと飲み込んだ。
「よし、それじゃあバグライトを討伐しようか。最初の攻撃はネロにお願いしようかな。それなりにタフだから遠慮なく攻撃してもらって大丈夫だ」
レオンはネロを見て親指を立てている。遠慮なくやれと言われれば遠慮なくやるが、……これ討伐しちゃうとかないよね? 威力を抑えるのも変な話だから遠慮なくやるけど、……大丈夫だよね?
少し不安に思いながらもネロは杖を構えた。空を飛び回る魔物ということで、弾速の遅い魔法は恐らく分が悪い。どちらかといえば速度がある攻撃の方がいいだろう。それなら……、槍だ。
「……ダークジャベリン!」
ネロとクロが同時に発射準備に取りかかる。小規模の魔法陣が2箇所で展開、撃たれたのはほぼ同時である。二発の黒き槍が逃げるでもなく棒立ちのバグライトに突き刺さる。手応えありだ。
さすがに攻撃されれば反応は見せる。バグライトは逃げようとしたのか羽を開き足に力を入れた。あからさまなその反応をレオンが見逃すわけがない。レオンはすぐに右手を挙げた。ウォークライの合図だ。急いでネロは耳を塞いだ。
「ウォークライ!」
まさに飛び立とうとする瞬間だったようだ。バグライトは羽を開いたままその場を動かない。こうなれば簡単である。動かない的に当てるのは誰だってできるのだから。ノーラが杖を構え空に掲げた。
「……トドメ。ディバインレイ」
上空に向けて放たれた光属性の魔力は空中で爆ぜ分裂した。その一個一個はノーラによってコントロールされている。杖が振り下ろされバグライトにほぼ全てが命中した。光属性の中級魔法ディバインレイ。初めて見るが凄まじい魔法である。




