昼食の時間
後半の分類学の授業も終わり、今は昼食休憩である。ここ帝都第二魔法学校は地下に食堂があるほか、教室内でも食事がとれ、天気のいい日は屋上のバルコニーが開放されているのだ。
ネロはジースに連れられバルコニーに来ていた。手頃な席に座りジースはお弁当を広げる。中身はサラダとサンドイッチか。野菜中心で恐らく栄養バランスも整えてあるのだろう。量がちょっと少ない点以外はケチをつける場所が見当たらない。
「……それ、ジースが作ったの?」
「そうだね……と言いたいところだけど違うよ。魔導士ギルド近くにサラダ屋があってね。今日はそれを買って詰めてきたんだ。僕が作ったのはこのサンドイッチくらいだよ」
……なるほど、半分は店で買ったものか。いや、半分でもすごいな。俺は一切作れない。母親が作ったパンをかじってるだけだ。ま、美味しいから良いんだけどさ。
「ネロのそのパンはどこかで買ったもの?」
「いや、母親が作ったパンだよ。収納魔法に入れておけば腐らないし大量に持ってきたんだ」
「大量ってどれくらい?」
「そうだなぁ。5日くらい連続で食べてるけど、半分も減ってないくらいだな」
ジースは口を大きく開けて動かない。まあ気持ちは分かる。ネロは帝都に来てから50個以上は食べているが一向に無くなる気配がない。下手すると3分の1も減ってないんじゃないかと思う。
しかも味のレパートリーも豊富だ。今日食べているのはチーズを乗せてこんがり焼いたパンとイチゴジャムパン。それにたっぷりのホイップが詰まったシュークリームだ。言うまでもなくもちろん美味しい。
さて、このままにこやかに昼食をとるのもいいが、ジースは多分そのつもりじゃないだろう。もたもたしてると昼休憩が終わってしまう。……こっちから尋ねてみるか。
「……それで? 何か話したいことでもあるの?」
「そうだねぇ。……あると言えばあるし、ないと言えばないかな」
なんだそれ。聞こえないくらいの小声でネロは毒づいた。自分では分からないがきっと今俺は苦笑いしているのだろう。ジースは少し悩み顔だ。話したくないなら無理に話さなくてもいいんだけどな。
「ネロは魔物使いなんでしょ?」
「ん? ……そうだな」
「魔物使いと魔法使いだったら魔法使いの方が魔法には長けているはずだ。総合的に負けていたとしても、魔法に限っては負けないはず。……一般的にはね」
……何の話だ?
「だから僕は君を超えてやることにしたんだ。今は総合はもちろん魔法でもちっとも敵わない僕だけど、いつか君を超えてみせるよ。……頑張ってみせるから、これからもよろしくね」
馬鹿に真面目な表情である。どうやらジースは真剣にそれを考えネロに言ってきたのだ。想像するにレオンに連れられたことが影響してるんだと思う。レオンが何を言ったかは分からない。が、ひとつ分かっていることがある。コイツ、……おもしろい。
俺はこういうタイプの人間は好きだ。だからからかってやることにした。目立つから数秒だけだ。腕をそっとまくり、アダプトリングを少しひねる。
「……だったら超えられないように俺も頑張らないとな」
ジースの視線はネロの後ろだ。せっかく超えてみせると思ってくれたんだ。限界の一端くらいは知ってもらわないと。……さて、ざわつく前に召喚は解除しておかないと。悪いね、ヴァン。今日の役目はこれだけだ。
「……ふふ、君は本当にすごいなぁ。あんなの見たことないんだけど。……一応聞くけど、幻覚じゃないよね?」
「違うな。俺の召喚できる魔物の最強格だ。……あんまり召喚する気はないんだけどね」
「まあ、僕にはあんまり関係ないかな。高い壁がさらに高くなっただけだからね。……君は知らないかもしれないけど、実は僕結構諦めが悪い性格をしているんだよ」
ふふ、ほらな、やっぱりおもしろいタイプの人間だ。ヴァンを見ても態度が変わらない。だからジースにはヴァンを見せていいと思ったんだ。
ネロはジースの宣言をにっこり笑って受け入れた。そして心の中で気合いを入れ直したのである。ジースの言う強さは正直言ってヴァンの強さありきだ。ヴァンがいなかったらその辺の魔導士とそう変わらない。
せっかくパーティメンバーが自分をライバルとして扱ってくれるのだ。自分でも強さを追い求めていかなければ申し訳ない。
予鈴のチャイムが鳴り始めた。もうそんな時間か、ネロとジースは広げたままの昼食を片付け教室へ戻った。後半の授業は教養である。ネロにとって最も必要な授業であり、ネロは一番の集中力で授業を過ごした。
こうして学校での一日が終わったのである。次の日は学校はない。学校が始まって初めての休日。ネロはゆっくりと体を休めた。そしてまた次の日が来た。学校はないがネロには予定がある。……そう、パーティで集まる日だ。
「さて、今日はもうひとつの討伐依頼をこなすぞ。……と、言いたいところだが予定が変わった。すまないが今日は違う依頼をこなす」




