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注意深く観察せよ


「今から君たちに説明するのは分類学と呼ばれる考え方の話だ。全てのものを何らかの基準、理由で振り分けることを分類と呼んでいる。今さっきネロが言ってくれたのは生き物についての立派な分類だ。協力ありがとう」


 不意にお礼を言われたネロは驚いて顔を上げた。それがおかしかったのか、どこかで小さな笑いが起こった。……少し照れるが礼を言われるのは悪くない。


「それで、だ。先程も言った話だが、重要なのはどこに違いがあるかだ。今から君たちにとあるプリントを配る。まずはそれを取り組んでくれ」


 シルバからプリントを受け取ったネロは1枚取って後ろに回した。教科書サイズのその1枚のプリントには順番に6までの番号が振られた植物が色鮮やかに描かれていた。パッと見は全て同じである。


「このプリントには6種類の植物が描かれている。どこかに何かしらの違いがあるはずだ。間違っていても構わない。注意深く観察して違いを見つけてもらおう。見つけた違いはプリントに直接書き込んで構わない。制限時間は今から5分間、……それでは始めてくれ」


 シルバの声を合図に全員が一斉に観察し始めた。ネロも同じように真剣に観察を始める。…………なるほど、確かに違う植物のようだ。よく見るとところどころ違う。

 観察して見つけた違いをプリントに書き込んでいく。葉の色が違うもの、葉の見た目が違うもの、そもそも葉がないもの、根が赤いもの。ネロは1分経たずに4種の違いを見つけた。

 どうやら簡単なのだと思ったが、残る2種の違いが中々見つからない。3分が経った。注意深く見比べてみると残る片方のくきの太さが違うように見える。これで違いはあと1種類。残る時間で早く見つけなくては。……しかしネロの頑張りも虚しく違いは見つけられなかった。


「……そこまで、回答終了だ。それではこれから解説に入る。もちろんそれもプリントに書き込んでもらって構わない。ではまず1から始めよう」


 それからシルバの解説が始まった。葉の色やくきの太さなどネロが見つけた違いに加え、シルバは葉の枚数や葉の模様の違いを指摘した。どちらもネロには見つけられなかった違いである。

 見比べてみてその違いを自分でも見つけた。指摘されると簡単に違いが分かる。なぜこれが見つけられなかったのか不思議なくらいだ。


「このようにどの植物にも何かしらの違いが見られる。……さてこの中にはアロエ草という植物が含まれている。君たちの中でアロエ草がどれなのかを分かる人はいるか?」


 シルバは不意にそんなことを言い出した。ネロはアロエ草がどんなものかまったく知らない。適当に答えていいのなら適当にするが、できれば答えたくない。だからネロは黙って下を向いていた。後ろを向いていないから分からないが、多分数人が手を挙げている。


「……ほう、結構いるな。それではミルコ・アマルフィ答えてみろ」

「2番」


 当てられたミルコは自信満々に答える。2番と言うと根が赤い植物だ。なるほど、これがアロエ草なのか。ネロは感心しながらその横に小さくアロエ草と書き込んだ。


「ほう、2番がアロエ草か。……違う答えのものはいるか?」


 ……ん? 違うのか? ミルコは自信満々だったように見えたが。

 ネロは体を正面に保ちつつ周囲を見渡してみる。……特に発言しようとする人はいなさそうだ。そして同じ意見だという雰囲気の人もいなさそうである。なるほど、残念だがミルコはハズレだ。


「2番は名前をアロエモドキという。アロエ草に大変間違えられやすいためにその名前がついた。……そして残念ながら毒草だ」

「……毒草?」

「あぁ、食すると体が痺れしばらく身動きが取れなくなる危険な毒草だ。だがこれで君たちは少なくともアロエ草とアロエモドキの区別はつくようになったな。素晴らしい。協力ありがとう」


 シルバはまた礼を言ったが、ミルコはバツが悪そうな顔である。大方クラスの皆の前で間違えてしまったことが恥ずかしいのだろう。だがおかげさまでアロエモドキについて詳しく知ることができた。ネロは先程書いた名前を二重線で消し、少し大きな字でアロエモドキと書き込んだ。


「君たちは既に何度も言われていることだが、失敗は恥ずかしいことではない。失敗することでしてはいけないことを理解できるんだからな。……それでは答え合わせだ。アロエ草は1番と4番だ」


 クラス全員が手元のプリントに目を落とす。1番と4番は葉の模様が違うものと葉がないものだ。この中で唯一葉がない4番はかなり目立っていた。それだけにそれと1番が同じと言われると少し違和感がある。


「1番は帝都周辺で見られる一般的なアロエ草、そして4番は乾燥地帯で確認されているアロエ草だ。葉がない分茎に水分が凝縮されており、貴重な水分として好まれているらしい」

「シルバ先生。質問があります」


 教室の端からそんな声が聞こえた。見ると水色の髪の少女が手を挙げていた。いったい何の質問をするつもりだろう。


「イシュタル・カサンドラか。質問を聞こう」

「アロエ草はその葉を回復薬の材料にすると聞きます。葉がないアロエ草はアロエ草と呼んでいいのですか?」


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