魔力の共有
ネロが納得の表情を浮かべている横でもう1人納得した顔の人がいた。ノーラである。
「それでか! おかしいと思ったんだ」
「……なにが?」
「ほら、私はマナチャージで魔力を回復できるでしょ? その時の手応えで大体その人の魔力の総量が分かるの。ネロはジースと同じくらいの手応えだった」
へぇ、そんなことも分かるのか。ジースと同じくらいの魔力の総量ねぇ……。まあ、そもそも魔導士になって日が浅いし魔力の総量なんて大したことないのは当たり前の話だな。
「つまりそれほど総量は多くないと」
「そう。ネロの魔力の総量はそれほど多くない。分かりやすく言えば、私の半分くらいの総量。もっと分かりやすく言えば、中級魔法を3発撃てば肩で息をするくらい疲れてしまうくらい。……でもヒュージスライムと戦った時、ネロはそれ以上に魔法を放っていたのに疲れた素振りすら見せなかった。疲れてなさそうだったから戦闘中にマナチャージはしなかったけど、本来ならぶっ倒れてもおかしくない」
『主様、ちなみにですがヴァンパイアエッジは並の中級魔法の倍以上の魔力消費ですのでお気をつけ下さい』
ノーラの言葉をそういうものかと受け入れたネロに受け入れがたいヴァンの念話が届く。ノーラもヴァンもそういう大事なことは早く言ってほしい。ヴァンがいなかったら速攻で干からびていたところだ。まったく危ない危ない。
「……今の話他の魔物にも適用できるのか?」
ロージアがいきなり口を開く。しばらく黙っていたかと思っていたらそんなことを考えていたらしい。まあ理解はできる。なにせヴァンの話はとんでもない話なのだ。
魔物側からも繋がりを作る。それをすることにより、魔力は循環し召喚魔法が持つデメリットを解消することができる。
それだけではない。むしろ副産物の方がメインまである。魔力を魔物と共有することになるため、実質的に術者の持つ魔力の総量は跳ね上がる。夢のような話だ。
「……残念ながら、魔物に契約の意思がないと成立いたしません」
「……意思、この場合思考能力と言うべきか。確かにそれがないなら実行することがそもそもできないか」
思考能力のある魔物でないと成立しない。ヴァンのその回答にロージアは残念そうだ。もっともそれは当たり前の話である。これが他の魔物でも成立するなら全員がやりたいだろうし、もう既にやっているはずだ。
「……ちなみに聞くが、あなたは生まれた時から魔族なのか、それとも魔物から進化して魔族になったのかどちらだ?」
「私はヴァンパイアとして生まれ、2度の進化を経てこの姿になりました」
「なるほど、それならば不可能でもあるまい」
ロージアは目を細めて笑った。話についていけないネロは隣のノーラに小声で聞いてみる。だがノーラもいまいち分かっていなかった。やはり寮長ともなると進んだ話ができるらしい。
感心していると急にロージアがこちらを向いた。何の用だと身構える。ロージアはネロに近づくと頭を下げた。いきなりのことでネロは上手く反応できなかった。
「……ええと、なぜ?」
「実のところ、あたしはここ数月の間悩んでいたんだ。鍛錬をしても強くなっていない気がしてね。準級魔導士になってから更なる高みへの目指し方が分からなくなっていた」
「……」
「魔物が魔族へと進化するのは尋常じゃないほど難しいだろう。だが、不可能ではない。目指す価値はある。……少なくとも高みへの目指し方ではあるはずだ。だから礼を言う。……ありがとう」
ロージアは再び頭を下げた。魔法学校の屋上で三年生が二年生に頭を下げる。実に異様な光景である。今が夜で良かった。ネロたち以外はここにいないのだから。
……そうだ、この流れならば聞けるかもしれない。
「……あの、さっきから言ってるしんかって何?」
「進化は多種多様な条件を満たした魔物が姿を大きく変える現象のことだ。上級や超級の魔物のほとんどは別の魔物から進化したものだ。魔物使いとして魔物を強くしたいなら理解しておくべき話だな」
……半分くらいしか理解できなかった。単語の意味がわからないので説明されてもあまり理解が進まない。俺は何よりも先に言語の勉強をした方が良いのかもしれない。理解をするのはその後だ。
「さて、もう夜も遅い。そろそろ部屋に戻った方がいい」
言われて周りを見渡す。空は星がきらめき、少し肌寒い。もうすっかり夜だ。確かにもう部屋に帰った方が良さそうだ。ネロは頷きながらキダルを見て、ノーラを見て動きを止めた。……そういえばスタッフ寮はどこなんだ?
「……しまった。明るいうちに道を聞いておくべきだった」
「あれ? ノーラは道分からないのか。それじゃあネロに……、ネロも知らないか」
「あたしが送っていくよ。ツバサに乗れば早い」
そう言ってロージアはアダプトリングを操作して再びツバサを喚んだ。他に方法が思い浮かばないので今回は送ってもらうことにした。キダルとネロは揃って頭を下げた。ロージアは軽く手を挙げて、それからノーラを乗せて飛んでいった。




