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ヴァンの秘密


「……え? なんで召喚されたの?」

「主様が喚んだからですよ。召喚主が召喚を願えば魔物はそれに応じる。そういうものです」


 そういうものって言ったって召喚とも言ってないぜ? 心の中で来てくれって言うだけで良いなら簡単だけどさ。……しかしこれもまた召喚ってことだろ? それじゃあ魔力マナを消費してるってことだ。もったいないことしたなぁ。


 魔力の無駄遣いを反省しネロは頭をかいた。不思議と疲労はあまり感じない。魔力量が多くなったということだろうか?


「……お、おいネロ! 早く召喚を解け!」

「へ?」

「いいから! 早く!」


 ロージアがネロを急かす。ひどく慌てた表情だ。不本意とはいえせっかく召喚したのにもう召喚を解くのはかなりもったいない。……まあ、召喚したとてやることはないから召喚し続けるのもまたもったいないのだが。

 ネロは袖をまくりアダプトリングに手をかけた。目の前に青白い手が現れた。まるで静止するように現れたその手を見上げるとヴァンである。ヴァンは首を横に振っていた。


「主様、その必要はありませんよ」

「なんだと! 早くしないとネロの魔力が枯渇するぞ!」

「枯渇しないから必要ないのですよ」


 ヴァンの声は静かに、しかし確かに耳に届いた。この場にいる全員の手が止まる。言っている意味はもちろん分かる。……だが理解はできない。ヴァンがなぜそれを断言できるのかネロにだって分からなかった。


「召喚魔法は召喚時だけじゃなく、召喚中にも魔力を使う。……これはあなたもよく知ってる通り事実です」

「あぁ、そしてそこで使われる魔力は魔物の強さに応じて加速度的に増える。……ヴァンといったな? あなたは魔物ではない。魔族だ。……違うか?」

「ええ、そうです。確かに私は魔族です」

「だったらなおさら! あなたの召喚で消費される魔力の量は想像すらできない。瞬く間に枯渇するのが普通だ。……なぜあなたは枯渇しないと断言できる?」


 異様な空気が流れている。話題の中心はネロの魔力が枯渇するかしないかである。だが肝心のネロは蚊帳の外である。ネロだって枯渇しない理由は知りたい。

 流れからすれば次はヴァンの番で、枯渇しない理由を言い始めるはずだ。この場にいる全員がヴァンに意識を集中させた。


「そもそも召喚魔法では魔物を召喚することはできません。あれはあくまで魔力マナで作った肉体に魔物の精神を縛りつけるだけの魔法なのです」


 ヴァンのその一言にキダルとネロが反応する。ロージアは反応しない。どうやらロージアはそのことを知っていたらしい。


「……そうだ。だからこそ死んだ魔物を使うのだ。肉体がない故に魔力で作った肉体への抵抗が少ない。だがそれでも魔物が強ければ強いほど多量の魔力がいる」

「ええ、その通りです。強い魔物を繋ぎ止めるには多量の魔力が必要です。そしてこれは一方的なものですから魔物を召喚し続ける限り、術者の魔力は返ってくることはありません」

「あぁ、だからいずれ枯渇するんだ。召喚し続けるのに必要な魔力を回復する手段を持たない限りな」


 何を今更。ロージアはそう言いたげだ。この話は召喚魔法がどういうものかを説明しただけに過ぎず、魔力マナが枯渇しない説明にもなっていない。


「ですので、肉体にも繋がりを作りました」

「……は?」

「同じ方法を使って私の肉体にも主様との繋がりを作ったのですよ。それも私からの繋がりです。これにより魔力で肉体を作る必要が無くなるばかりか、主様と私で魔力が循環するようになるのです。……分かってもらえましたか? これが魔力マナが枯渇しない理由ですよ」


 沈黙が訪れた。ロージアは下を向いたまま考え込み、キダルはぽかんとした表情。そしてネロは繋がりなんていつ作ったと不思議顔だ。

 記憶を辿ってみる。ネロからヴァンへの繋がりというのは契約のことだ。それは覚えている。召喚した時に結んだものだ。そしてヴァンからネロへの繋がり。これも同じことなんだろうか? ……ん? そういえばヴァンからも何かもらってたな。イヤリングだったっけ?


「もしかして、あれがそうなの?」

「ええ、主様。いかにもあれがそうなのです。あの時私からもあなたとの繋がりを作りました。あなたの魔力量はそれで跳ね上がったはずです。私と魔力マナを共有しているんですからね」


 なるほど、やはりそういうことか。確かにあの時ヴァンからイヤリングをもらったんだっけ? 見えなくなっているからすっかり忘れてたよ。

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