古代の力よ
キダルとネロは顔を見合わせる。さすがに無視して自分たちのことをするのは違うだろう。ネロたちは自分の魔物との鍛錬に勤しんでいる寮長のもとに歩いて向かった。
「……む、こんな時間に修練場に人が来るなんて珍しいな。それも3人」
「ロージアさんはおひとりで鍛錬ですか?」
「あぁ、ちょっと試したいことがあってな」
「……あ、あの!」
全員の視線がノーラに集まる。何か気になったことでもあったのだろうか。ノーラはキダルの方を一瞬見て、そして恐る恐る口を開いた。
「……あの、手首のそれは何ですか? キダルも着けていたから気になって」
「あぁ、これか。これはアダプトリング。複数の魔物を扱うなら必要になってくるものだ」
そう言ってロージアはローブの袖をまくりアダプトリングをよく見えるように差し出した。そしてツバサを撫でアダプトリングのつまみを回す。ツバサは召喚が解かれいなくなり、代わりに別の魔物が姿を現した。やはりロージアだ。良い魔物を連れている。姿を現したのは、地属性中級の魔物だ。
「……ところで君は見たことない顔だな? キダル、この人は?」
「ノーラ・ヴァイス、スタッフ寮の二年です。魔物使いに少し興味があるようで」
「ほう? つまりサブスタイルにということか。それは嬉しいな」
ロージアはにっこりと笑って手を差し出した。ノーラは恐る恐るその手を握る。握手に満足気な表情を浮かべたロージアだったがすぐに真面目な顔に戻った。
「それで? 君たちはどうしてここに? まさかただここを見に来た訳じゃないだろう。こんな夕食時に来るくらいだからな」
やはりそこが気になったか。真正面から尋ねられては逃げることはできない。キダルはネロの顔を見る。別に隠す必要はない。それにロージアならもしかするとこれが何の魔物の一部か知ってるかもしれない。
「ちょっと珍しい魔物の一部が手に入ったので召喚してみようかと」
「ほう! 珍しい魔物の一部」
ロージアは大きく目を見開いた。中級の魔物だから実はそれほど珍しくないかもしれない。故にちょっと保険を打っておいたのだが、ロージアは聞いてやいない。すぐに見せろと言いたげな顔だ。
収納魔法に手を突っ込み小さな鱗を取り出す。それを手でつまみロージアに見せた。夜空よりも黒いその鱗は確かな生命力を発していた。
「……確かに珍しいな。この辺りでは中々見かけない。……ふふ、ネロは珍しい魔物の一部と縁があるな。ちなみにこれはどこで?」
「ピアニカさんの店です」
「あぁ、あの婆さんの店か。それなら納得だな。そしてそういうことならその魔物の一部が何なのか大体推測がつく。……相変わらず食えない人だよ」
大体推測がつく。その言葉にネロは眉を上げた。ネロは図鑑を使えばある程度魔物の判別はできる。だが魔物の一部から推測するとなるとからっきしである。
もしかするとと思っていたが、やはりロージアはさすがである。ネロは手にした小さな鱗をおずおずと差し出した。ロージアはにこりと笑った。
「恐らく恐竜種だろう」
「恐竜?」
ネロは図鑑を取り出すと目次を開いた。思った通り恐竜種はかなりのページを占めていた。恐竜種は魔物の中で最も数の多い種族ともいえるほどとにかくその種類が多い。そしてその多くがそれなりの強さを持っていた。この小さな鱗もまたそんな力を持っているのかもしれない。そう思うと感じる生命力が強くなった気がした。
「婆さんの店に行ったのなら水晶の入れ物は持っているな。召喚してみろ。あたしのカンが間違ってなければ闇属性の恐竜が召喚されるはずだ。……おっと、そうだ。2体同時召喚はできないから召喚を解除するのを忘れずにな」
ネロは小さく頷きアダプトリングのつまみを捻った。ロージアの視線が鋭くなった気がした。……気のせいかな。ネロは収納魔法から水晶の入れ物を取り出す。そして小さな鱗をその中に入れる。これで準備は完了だ。ネロは出来上がったそれを握りしめて前を向いた。隣ではキダルがノーラに説明をしていた。
「水晶の入れ物に召喚したい魔物の一部を入れる。これで準備は完了。あとは簡単、召喚と言うだけ。それで召喚魔法は成立する」
キダルのそんな説明が聞こえてくる。何となく待った方がいいのかなとネロは目をつぶって説明が終わるのを待った。そして説明が終わったタイミングで静かに召喚、と呟いた。水晶はまばゆいばかりの強い光を放ち魔法陣を描いた。
重そうな瞼をわずかに開けて魔物がネロを見ている。……なるほど、確かにその鱗は小さい。そして確かに目の前の魔物は恐竜種だ。小さな黒い恐竜がそこにはいたのである。
「やはり恐竜種か。こいつは……、リトルブラックだ」
ロージアはこの恐竜がどんな魔物なのかを知っているようだ。ネロはすぐに図鑑を取り出すとページをめくる。リトルブラック。闇属性中級の魔物で恐竜種。ページの挿絵と目の前の恐竜は瓜二つ。ロージアのカンは大当たりである。これなら考えていた名前で良さそうだ。何の捻りもないが、しっくりくるからこれでいい。
ネロは手元の水晶の入れ物をリトルブラックの首にかけた。契約は受け入れられ水晶の入れ物は見えなくなった。
「……お前の名前はドランだ。よろしくな」




