ルーレット
店主の指先を目で追うと確かにそれらしき商品が見えた。ゆっくり歩いて向かう。棚すべてに水晶の入れ物が並んでいる。サイズは大小様々。それぞれが照明に照らされ輝きを放っている。店内は暗いがここだけは少し眩しいくらいだ。
ネロは目を細めながら値札を確かめる。今の手持ちは依頼の報酬金3000Gと母親に待たされたお小遣いの残りの8000Gの合計11000Gだ。ただこれはこれからの生活費も含んだものであり、すべてを使うわけにはいかない。……となると5000Gもしくはその上の8000Gが無難か?
「お姉さんちょっと聞いてもいい?」
「なんじゃ?」
「サイズの大小って何か意味があるのか?」
「大きい素材が入るかどうかだけさ。だからうちではサイズで値段は変えてない」
なるほど、素材自体のサイズが問題になってくるのか。確かに中に入らないと話にならないもんな。……必要になるか分からないけど、一応デカい方にしておくか。
ネロは8000Gの値札が貼られた棚から水晶の入れ物をひとつ手に取った。今までのものとややサイズが大きくなっており、手に何となく質感を感じた。
「ネロはそれにしたのか」
「何となく大きい方がいいかなと」
「まあそういう直感は大事。さ、それもここの横に置いて」
「……?」
「新入生はお金が結構かかる。奢ってあげる」
大変ありがたい申し出である。もちろん最大限のお礼と共にありがたく奢ってもらう。ノーラの隣でキダルも何かを言いながら財布を開いている。声は聞こえないが、多分キダルも半分出してくれるのだろう。持つべきものは良い先輩である。いやぁ、頼もしい頼もしい。
「合計35000Gだ。……キダルが全部払うでいいのかい?」
キダルの顔を見る。真面目な表情だ。さっき何かを言っていたのはこれだったか。もしかすると元よりそのつもりだったのかもしれない。大感謝だ。
「もちろん」
「まいど。それじゃあ初めて買った2人にはサービスだ。……そして気前のいいキダルにもね」
「へぇ! それは嬉しいな」
サービス? 何の話だ?
ネロが首を傾げると店主はカウンターの奥からあるものを取り出した。やけに重そうなそれはドシンという音共にカウンターに置かれた。……これは、……ルーレット?
「知っての通り召喚魔法にはこの入れ物ともうひとつ魔物の一部が必要だ。だからあたしは初めてこれを買うお客さんにはこいつ1回をサービスしている」
ルーレットには0から35の数字がバラバラに書かれている。そしてその数字の下に色づいた窪みがある。……うんうん、なるほど。これは、遊戯だ。
「使うのはこの小さな鉄球。真ん中のつまみを回せばルーレットが始まる。0から21まではハズレ、30までは低級、それ以上は中級だ。……さて、誰からやるんだい?」
店主は楽しそうにニヤリと笑った。実に楽しそうな遊戯だ。それに報酬も少し気になる。半分以上がハズレの確率の低い戦い。それだけに勝てばそれなりのものは手に入るだろう。
こういう遊戯は嫌いではない。ネロはニヤリと笑って一歩前に踏み出した。
「ネロからだね。鉄球の初期位置は決まってない。だから好きな窪みに入れな」
好きなところか。バラバラに数字は配置されているし、どこに置いたって結果には多少しか影響しないだろう。だが、だからといって適当に置くのは違う。狙いは中級。ネロは黙って31の数字の窪みに入れた。
「チャンスは一度きり。鉄球が外に飛び出してもハズレじゃよ。……さて、準備はいいかい?」
「……もちろん」
ひとつ息を吐く。落ち着けば冷静になれる。焦って回すよりは冷静な方がずっといい。少しはやりだした心を落ち着かせたネロは指先に神経を走らせ、つまみを勢いよく回した。
ぺこりと頭を下げネロたちはネーダリアを出た。ネロの収納魔法には黒い小さな鱗と中級の魔物用の水晶の入れ物が新しく入れられている。ネロは低級の魔物用の水晶の入れ物をキダルに買ってもらったのである。だから本来ならばそれが収納魔法に入っているはずだ。
代わりに入っている水晶の入れ物はルーレットで34番を当てたネロにせっかくだからとキダルが購入したものと交換したものだ。そして交換条件を満たすためにネロたちは夜のこの時間にスレイブ寮へと向かっていた。
交換条件はもらった魔物の一部で召喚することである。要するに何が当たったのかを確認したいのだ。それはネロだって知りたいことだから実質無償トレードだ。
寮近くの屋台で軽く腹ごしらえをして寮に入る。屋上へ上がり扉を開ける。この時間なら誰もいないだろう。だからこそ寮の修練場に来たのだ。
……だが、その予想は外れた。先客がいたのだ。その先客はエンシェントウィングのツバサと鍛錬に励んでいた。




