押しかけ
確かに合理的ではある。まだ聞いていないが多分キダルは入手先がどこか知っているはずだ。この機会に知っておくのもいいことだ。
「戻ったぞ。無事に討伐依頼の報告は済んだ。ヒュージスライムの分も含めると、報酬金は12000Gだから1人3000Gだな」
そう言いながらレオンは1人ずつにコインを配り始めた。金貨が3枚。初めての報酬金であり、ネロにとって初めて自分だけで稼いだお金である。ネロはちょっと誇らしげにその金貨の輝きを見ていた。
「今日はもうこれで解散だ。次の活動日は3日後学校が休みの日。魔法の練習するなり、金を稼ぐなり、ゆっくり休むなりまあ自由に過ごしてくれ」
「レオン、今から魔物使いについて聞きにスレイブ寮に行くね」
「おう、行ってこい。……それじゃあネロはノーラの案内だな。ジース」
急に呼ばれてジースは裏返った声で返事した。……そういえばずっと空気みたいだったな。
「お前暇か?」
「……2時間後にちょっと」
「なら大丈夫だな。ちょっと暇潰しに付き合え」
「ほえ……?」
言葉になってない返事をその場に残してレオンはジースを半ば強引に連れ去っていったのである。状況が上手く飲み込めないネロは呆けた表情だ。
「レオンは世話焼き」
「……?」
「ほら、彼全然何もできてなかったじゃない? レオンはそういう時励ましがてら連れ回すのよ」
なるほど、それで世話焼きか。確かにジースはほとんどいないようなものだったし、本人もそれを気にしてるっぽかった。活躍してないことをいつ言われるのかビクビクしてたしね。
「さ、案内してね。スレイブ寮に行くのは初めてだから結構楽しみ」
ノーラは満面の笑みを浮かべている。その言葉にちょっとだけ心配になる。もしかすると他寮に行くのは珍しいことなのかもしれない。下手するとなんらかの問題に繋がる可能性もある。
…………まあ、いいや。あれこれ考えてもどうにもならない。知らないものは仕方ないことだ。
ネロは思考を放棄すると寮に帰るいつもの道順を歩き始めた。案内しながらだとまた違った景色だ。日は傾き始めている。涼しい風が心地よく肌を撫でた。
「……へぇ、スレイブ寮ってこんなところなの」
「ノーラのところとは違う?」
「そうねぇ。ここの方がちょっと古いかな」
へぇ、どれも一緒だと思っていたがどうやら違うようだ。そう聞くと他寮も気になってきたな。また今度エレクにでも案内してもらおう。
ネロは寮前の事務所で管理人にノーラが来たことを伝えた。手続きが何か必要か聞くためである。管理人は笑ってどうぞとだけ言った。……どうやら特に手続きはいらないようだ。楽でいいが、セキュリティは若干心配になる。
ノーラは物珍しそうにあちこちキョロキョロ眺めている。ネロも最初に来た時は多分こんな感じだったのだろう。そう思うとちょっとだけ可笑しい。
扉を一応軽くノックする。キダルは帰ってきているようだ。まだ部屋着になっていないから帰って間もないのかもしれない。キダルはマグカップ片手にこちらに視線だけを向けていた。誰だ? という視線。……まあ、普段はノックしないからネロと思わないのは理解できる。ネロだってノーラがいなければノックはしなかったのだから。
「……いらっしゃい? ええと、君は確か」
「ノーラ・ヴァイスよ。あなたは確かキダルね。同室の先輩っていうから三年生かと思ったわ」
「あぁ、確かにその先輩は僕だよ。ええと、……何か用かい?」
ネロは簡潔にキダルに説明した。その間ノーラは部屋の中をジロジロと眺めている。……ちょっと恥ずかしいから勘弁してほしい。キダルはネロの説明ですぐに理解したようだ。
「なるほど、大体分かった。それで僕にどうやったらその水晶の入れ物が手に入るかを聞いてきたんだね?」
「そうなるな」
「ちょうどよかった。そろそろ僕も買い足そうと思っていたからね。ネロ、お金はあるかい?」
あぁ、なるほど。あれは道具みたいに買うものだったのか。……あれを買うためのお店があるのかな? 当たり前といえばそうなんだけど、まだまだ知らないところがあるんだなぁ。いくらくらいなんだろうね?
「どれだけあればいい?」
「安いものだと500Gくらいで売ってるかな」
「へぇ、案外安いんだな」
「質はその分悪くなるけどね。質を上げようとすればその分高くなるよ。例えば前にネロにあげたのがあるだろ? あれは15000Gくらいしたはず」
えっ、という言葉は声になったかどうか怪しい。まさかあんな風にもらったあれがそれほど高いものだとは思わなかった。ネロは収納魔法に手を突っ込んだ。母親から渡されたお金が残っていれば返すことができる。……合計で金貨12枚。残念ながらこれでは足りない。
「そんな高級品をあげるなんて随分と気前がいいじゃないの」
「まあね。でもおかげで良いものが見れたからいいのさ。多分あれじゃないと失敗してただろうしね」
どうやら払わなくても良さそうである。キダルには悪いがネロは流れに身を任せることにした。こういう時は黙っている方がいい。ネロは経験としてそれを知っていたのだ。
「さ、それじゃあ出発しようか。案内するよ」




