あとは簡単
ノーラはまじまじとネロを見つめた。ネロは琥珀色の瞳に自分の姿を見た。こんなにも正面から目を見たのは初めてである。どこかで咳払いの声が聞こえた。
「気持ちは分かるが後にしな。そんな話帰ったらいくらでもできる」
見ればレオンがこちらを見てニヤリと口角を上げていた。そうだ。ヒュージスライムを倒して達成感を感じていたが、そもそもの目的はそうじゃない。スライムを5体討伐しなければ依頼は達成されないのだ。
「確かにね。それじゃあ早く依頼を済ませよっか」
「ネロ、さっきの魔法。……ヴァンパイアエッジだっけ?」
「あぁ、そうだよ」
「あれは中々の威力だった。多分あれならスライムを一撃で倒せる。……魔力があれば連発できるな?」
「もちろん」
隣でノーラもそれに応えるように手を顔の前に向けた。回復の準備は抜かりないようだ。レオンは顔を左に向けた。視線の先にはおあつらえ向きに5体のスライムが呑気にうごめいていた。レオンは瞳を閉じた。赤いオーラを身に纏う。ざらついた殺気のような空気をネロは感じた。
「ちょっとばかしうるさいが、我慢しな。……ウォークライ」
レオンはそう呟いて、吠えた。凄まじい音量の声が響く。耳を塞いだって関係ない。ビリビリと空気の割れる音がした。どこがちょっとだよ。ネロは心の中で毒づいた。
その声を直に聞いたのだろう。スライムたちはこちらを向いて目をあんぐり開けたまま固まっていた。その様子をネロは呆けたようにじっと見ていた。
「今だよ」
ノーラが背を叩く。あぁ、そうだ。これはレオンが作った隙なんだった。これでは危うく無駄にするところだ。早く短刀を構えなくては。数が多いからクロにも手伝ってもらおう。お、得意気。それじゃあ任せたよ!
「……ヴァンパイアエッジ!」
赤黒い斬撃が二発放たれる。狙い澄ましたその斬撃は固まっているスライム2体に直撃。核は脆くも崩れ落ちた。依頼達成にはあと3体だ。
レオンの指示は連発。すぐさま次を撃たねばならない。……どうせなら試してみるか。ネロは短刀を横に構え、イメージを横に広く取った。並んでいるならこれでまとめて攻撃できる。
「ヴァンパイアエッジ!」
ヴァンパイアエッジは横に拡張されまっすぐ飛んでいった。並んで固まるスライムにまとめてぶち当たったそれは見事に全ての核を壊したのである。これで依頼完了だ。
「いいね、鮮やかだ」
「そりゃどうも」
「しかし見たことない攻撃だな。……しかし、俺も約2年間色々な魔導士とパーティを組んだものだが、さっきの魔法は見たことねぇ。どこでそんなの知ったんだ?」
レオンは不思議そうな顔だ。どこでと言われれば答えにくいが、習得元は簡単だ。ヴァンが元から習得していたものを流れで習得しただけである。
悪目立ちしたくないからとネロはヴァンの存在を隠している。だから説明は簡単だがしない。まあまあと曖昧な返事で逃げた。
「まあ、いいや。さっきのウォークライでスライムはすっかりびびってる。だからさっさと安全に採取したら帝都に戻ろうか」
レオンの呼びかけにネロとノーラはすぐに反応した。ジースは苦い表情で遅れて反応している。自分の魔法でヒュージスライムを呼んでしまった上に、戦闘で全く活躍ができなかったことを気にしているらしい。
ここでネロがフォローするとちょっとばかりややこしい。ネロはジースの様子を気付かなかったことにした。そしてそれはレオンとノーラも同じである。
結局誰も気にすることはなく、帝都への帰路はジースがただトボトボと後ろを歩くだけであった。
――
魔導士ギルド
――
「ギルドに依頼の報告に行ってくる。まあその辺りで待っていてくれ」
ギルドに着くなりレオンはそう言ってどこかに行ってしまった。報告なんてどうやってするのか知らない。最初の報告は見ておこうかな。そう思ってネロはレオンについて行こうとした。が、袖を引っ張られて動けない。見るとノーラがすごく真剣な表情でネロを見ていた。
……あぁ、そうか。そういえばそうだったな。
「さ、ギルドまで帰ってきたんだからいいよね。魔物使いについて教えて」
説明しろと言われても少し困る。なにせネロは魔物使いになって日が浅い。精々初心者を半歩だけ進めたくらいなものだ。教えられるのにも限界はある。とりあえず知っているものだけ……。
「魔物使いは契約している魔物の魔法を使うことができる。……条件はあるけど」
「例えば?」
「例えば……魔物固有の性質を使うような魔法……とか?」
「……ふぅん? まあ、いいや。要するに使えるのとそうじゃないのとがあるってことね。それじゃあさらに質問。確か魔物はその辺にいる奴じゃなくて、召喚するんだったよね? どうやるの?」
これは答えられない。召喚魔法のことは教えられてもそれだけではノーラは魔物を召喚できない。召喚にもその後の契約にもあの小さな水晶が必要である。その水晶をどうやって入手するのかネロもまた知らないのだ。
「……今まではどうしてたの?」
「寮長さんからひとつと、同室の先輩からひとつもらった」
「なるほど、その先輩に聞けば分かるのね。それじゃあ案内して」
…………ん?




