まずは寮へ向かおう
「うわぁ……。でっけぇ……」
窓から見える景色にネロは思わずそう呟いた。飛行船に乗ること約1時間半。ようやく帝都が見えて来たのである。座席に座ってるのもいい加減暇になってきたネロはさっきからずっと窓を見ていたのだ。
「何が見えたんだ?」
「ほら見ろよあれ。あんなでっかい塔見たことないぜ」
そう言うとネロは窓の向こうを指差した。確かにそこには塔が建っていた。鉄……だろうか。金属めいたきらめきが見て取れる。あれはいったい何のためにあるのだろうか。じっくり見れば分かるかもしれない。ネロとエレクは窓に釘付けになっていた。
だがそれはあえなく中座することになる。もうすぐ着陸する。そんな運転士からのアナウンスが聞こえたのだ。
「さて、……到着だね」
「案外時間がかかるもんなんだなぁ。この飛行船割と速度が出てたと思うけど、それでも1時間以上もかかるんだ」
「それだけ帝都とバドラ島が遠いってことなんでしょ。ほら早くしないと時間はあんまり無いわよ」
マーサは取り出した時計をチラリと見るとポケットに突っ込んだ。慌ててネロも収納魔法から懐中時計を取り出す。……待ち合わせ時間にはあと15分しかない。住む場所を確保するためまずは先に寮を案内してもらう。そういう手はずになっているのだ。
飛行船から降り、ネロたちは周囲を見渡す。職員がせわしなく動き回っている。ネロたちを気にかけるものなどいない。当たり前だが見慣れない景色。待ち合わせ場所を探すのも一苦労である。
「えっと、……待ち合わせはどこだっけ?」
「時計広場……だったかな?」
「初めて来る場所だから地図を見てもそもそも現在地が分からないんだよねぇ。ええと、ここはオリエント空港? だったっけ?」
「地図見てる暇はないだろ。だったらこうしようぜ」
地図を広げようとしているマーサをネロが止めた。ネロは周りに当たりそうな人がいないことを確認すると一気に翼を広げ飛び立った。
ものを探す時は見晴らしを良くすると見つけやすい。空高く飛べばすぐに目的の場所が見つかるだろう。現に探していた時計広場はすぐに見つかった。……どうやらすぐ隣にあるらしい。
「どっちに行けばいい?」
「あっちだ。……割とすぐ近くだったよ」
「そう! 時計広場はオリエント空港のすぐ近く。帝都ガイヤビルドの玄関口として集合するにはとっても便利なのさ」
前方からそんな声が聞こえてきた。鮮やかな緑髪と黒い服を着た男がそこに立っていた。ネロたちよりも20センチ以上は高く、ずっと筋肉質だ。声をかけてきたのはこの人物で間違いない。
「僕も君たちのことを知らないから合流できるかちょっと不安でね。悪いけど集合時間は少し遅めにしてもらったんだ。……ま、その心配は要らなかったけどね。なにせ帝都で翼を広げる人は珍しいからな」
「……あなたは?」
「失礼。僕はトムソン・アレグリア、三年だ。ま、気軽にトムソンさんって呼んでくれ」
「……よろしく?」
ネロは戸惑いながらも差し出された手に握手で応じた。屈強な見た目通りの力強い握手である。思わず顔をしかめたのはネロだけのせいではない。
ネロがよく知る大人は華奢な人ばかりである。一番体格がいいネロの父もまた細身の人。二学年上である以上に差をネロはありありと感じた。
「トムさんったら後輩おどかしてどうするのさ」
「なにもおどかしてないよ。ほらただ握手しただけだろ?」
「それがおどかしてるっていうのさ。ほら3人とも困ってるでしょ?」
いつの間にか人が1人増えている。トムソンと同じ雰囲気の黒い服を着ている。……ひょっとしてこれが制服なのだろうか。まあそんなことはどうでもいいか。ネロは口から出かかった疑問をのみこんだ。
赤い髪を短く切り揃えている。見た目は少年のように見える。トムソンよりは小さな体格だが、ネロたちよりは大きい。彼もまたトムソンと同じく寮の先輩なのだろうか。
「……えっと」
「あぁ! ごめんね。自己紹介しないと誰か分かんないよね。僕はロンド・アンダーソン、二年さ。トムさんと一緒に寮の案内を頼まれてるんだ。そして君たちが今日やってくるっていう新しい子たちでしょう?」
ロンドと名乗ったその男は忙しなく喋り続けた。いきなり現れてよく喋るからどう反応していいか分からない。曖昧で返答にもなってない言葉をどうにか出す。するとロンドは満足そうに笑ってトムソンの方を向いた。トムソンは苦笑いに似た微笑みを浮かべていた。
「僕はブレイド寮、ロンドはスタッフ寮にいるんだ。大体新しい子たちはここに入るからね。それで僕たちが呼ばれた訳だ」
「トムさんは準級魔導士。中々寮の案内には来れないんだよ? 君たちラッキーだね!」
そういうロンドはにこやかである。……だが、相変わらず喋りは忙しなく何を言ってるのかさっぱりである。ブレイド寮にスタッフ寮。それに魔導士。説明をされなければ何のことなのか分からない。なにせネロたちは何一つ知らないのだから。
怪訝な顔をしているネロたちを見てロンドはきょとんとした顔だ。だがトムソンはその理由を察したのだろう。ざっくりとした説明をするために口を開いた。
「帝都第二魔法学校には4つの寮がある。それぞれ得意な戦闘スタイルが大きく変わるのさ」
「戦闘スタイル?」
「優れた魔導士になるならまず自分が何を得意なのかを知ることが大事なのさ。あ、魔導士ってのは魔法を使う人全般のことね」
ロンドの補足でようやく少しは理解できた。要はどうやって戦うのかを決めろと言うことである。しかしまだまだ知らないことはいっぱいである。……たとえば
「……ええと、戦闘スタイル? には何があるんだ?」
「そうなるよね。君たちは儀式を受けたばかり、と聞いている。自分の魔力の属性がようやく分かっただけ。何が得意かなんて判断できないはずだ。……そこで」
「そこで?」
「これの出番だ」
トムソンは収納魔法から水晶を取り出した。記憶にあるものよりも少し大きい。儀式で使っていたものによく似ていた。




