スライムを倒せ
スライムは臆病な性格の持ち主である。群れで活動していることが多いが、多くの場合物陰に隠れてじっとしていることが多い。
ところが目の前の光景はどうだろう? 水たまりの周囲を取り囲むようにしてかなりの数のスライムがうごめいていた。
目視で数えた限りでは24体ほどいるだろうか。引きつった顔でネロは索敵魔法を使って数えることを試みる。赤い反応の数は25……見間違いがあったか。まあこれだけ数がいれば数え間違いもあるだろう。
「……こりゃひでぇな。予想よりも湧いてるんじゃないの?」
「……予想?」
「いくら群れる魔物だからってGランクの依頼でも中々5体討伐なんてないわけよ。だから大量発生でもしてるのかなと思ってさ。……したら案の定だよ。これヒュージもいる可能性があるな」
ヒュージスライム。いくつものスライムが重なり合って生まれたとされるスライム種の上位個体である。ヒュージというだけあってとにかくからだは大きい。
しかしながら柔軟なからだの持ち主のためわずかな隙間でも身を潜めることができるという。戦闘に夢中になっていつのまにかヒュージスライムに追い込まれていたなんて話は後をたたない。
……これは図鑑で得た知識だ。こう見てみるとやはり目視では15体しか見えない。どこかにヒュージスライムがいる可能性が高い。相手にせずに討伐依頼を終わらせたいところ。
「それじゃあなるべく早くに討伐を終わらせた方がいいな」
「おっと、焦るなよ。俺たちはあくまでもスライムを5体討伐することが目的だ。焦ってそれ以上の数を相手にする必要はない」
レオンの話を聞きながらネロは目の前にうごめくスライムたちを見ていた。確かにここから5体だけを討伐するのは中々に難易度が高い。いや、討伐するだけなら簡単である。
依頼はスライム5体の討伐。当然だが討伐した証拠が必要である。どでかい魔法をど真ん中にいくつかぶっ放せば5体前後のスライムを討伐できるだろう。だがそれをすれば周囲の大量のスライムに囲まれながら討伐の証であるスライムの一部を採取しなければならなくなる。相手できなくもないが、面倒なことには変わりない。
「……何かヒントないかな」
ネロはそう呟くと収納魔法から図鑑を取り出した。隣でジースが意外そうな顔をしている。……そんなにか? ちょっとだけネロはむくれた。
スライムは低級の魔物だしこれといって特徴があるわけではない。ありふれた魔物であり、みんながよく知っている魔物だ。だから図鑑でわざわざスライムを調べるのは初めてである。……なるほど、潤いを常に求めており、高湿度の場所を好む……か。誘導ができるかもしれない。
「ジースのその水属性魔法って水自体を発生させているの?」
「……ん? どういう意味?」
「発動した後水が残るかどうか知りたくてさ」
「あぁ、そういうこと? うん、ちょっとではあるけど水として残るよ」
よし、予想通りだ。あとは威力をどうするか、だな。ジースの魔法のレベルがどれくらいかでものすごく変わってくるんだよね。まあいきなり5体を狙うというよりは2,3体反応してくれたら充分だろ。
「ジース、一番小さい威力の魔法をあの岩陰辺りに撃ってくれないか?」
「え? ……どうして?」
「スライムは水を好むらしい」
「あぁ、誘導ってことね」
ジースは軽く何度か頷くと杖を構えた。威力を抑えての条件付きだからため時間も極小である。小さく弧を描き岩にぶつかる。水しぶきが飛び散り湿度が何となく高まった気がした。
少し様子を見る。突然増えた水分に気付いたかスライムが何体か岩に近づいていく。…… 4体か、惜しかったな。
一応索敵魔法を使っておく。赤い反応は 4つ。ヒュージは混じってないな。それなら安心して討伐しに行ける。……待てよ? 近くに反応が1つ?
赤い反応はネロたちの背後だ。いつのまにか近づかれていたか? と急いでネロは振り返る。姿が見えない。……やらかしたか?
「水で誘導ってのはまあ良い案ではある。ただ……まあ作戦としては失敗だな」
「こっちも誘導してしまったってこと?」
「そうなるな。同じスライム種、好みは同じってことだ。……まあ反省は終わってからだ。ひとまずコイツを始末しよう」
コポコポという音が聞こえてくる。どこから湧いてきたか分からないスライムがどんどんと体を膨らませていく。見る間に自分の身長の2倍以上の魔物が姿を現した。これがヒュージスライム、思ったよりもずっと大きい。そして図鑑で見るよりもずっと、……おっかない。
「ビビってたら死ぬ。男なら腹括れ」
「ふはっ、ノーラは厳しいねぇ。まあ腹括れってのは俺も同感だ。覚悟決めろよ? さあ、戦闘開始だ」




