格の違い
生徒たちは壊れかけてボロボロになっているクレイドールを見てうまく反応ができない。確か話では二級魔導士が本気でやっても壊れない代物だったはずだ。
しかし目の前の先生はバリアを張った上で正面から物理で叩き潰したのである。相当な威力の攻撃だったことは言うまでもない。
壊れかけのクレイドールだが、測定はできたらしい。ピピっという高い音が聞こえた。リチャード先生は端末をちらりと見た。……特に何も言わない。
クレイドールはかなり限界が近い。リチャード先生は一旦それを回収してから新しいものを取り出した。そしてまた測定が始まるようだ。リチャード先生はアルフレッドを呼んだ。
「それじゃあ2回目を開始する。今回もアルフレッドから始める。さて、アルフレッド。2回目はどちらにする?」
「……あの、先生のスコアはどれくらいなんですか?」
恐る恐るアルフレッドは質問をしてみた。音が鳴ったということは測定ができているということである。相当な威力に見えたが、実際スコアにしてみるとどれほどなのだろうか。と、気になったのだ。
無論それはアルフレッドだけではない。生徒全員がリチャード先生に視線を向けた。少し顔をしかめている。どうやら言うつもりはなかったようだ。
「……スコア気になる?」
「まあ、……それなりには?」
「最後に言うつもりだったんだがなぁ。君たちのやる気が減るんじゃないかと思って。……やる気無くなったりしない?」
リチャード先生はそう言って全員に視線を向けた。やる気が減るとはどういうことか分からなかったが、全員無言で頷いた。あれだけの威力を見せられたのだから気になるのは当たり前である。それに最後に言うつもりだったのなら今聞いても大丈夫だろう。
「……分かった。リチャード・ファミリア、無属性。スコア7815」
……聞き間違いか? 今とてつもなくデカい数字が聞こえた気がしたが。……周りのクラスメイトから「な、7000?」という呟きが聞こえた。なるほど、どうやら聞き間違いではないらしい。
「トライスラッシュ。無属性の攻撃魔法。等級としては上級の魔法になる。これは俺にとっていくらでも撃てる魔法であり、なおかつ威力は抑えてある。危ないからな」
「ど、どうやってそんなスコアが」
「魔導士として鍛錬を積めば、誰でもそれなりにスコアは伸びる。俺は仮にも君たちの先生なんだ。これくらいはできるさ」
リチャード先生は軽い口調でそう言った。口調は軽いが、その言葉は重い。仮にリチャード先生くらいの歳まで鍛錬を積んだとして、果たして同じレベルまでたどり着けるだろうか。
スコアが桁違いに高く、それがとんでもなく大きな差のように感じられた。あのスコアに比べれば自分たちはなんてちっぽけなんだろう。暗い空気があたりに立ち込めた。
「……こうなると嫌だから最後に言おうとしてたんだかな。まあ仕方ないか。……2回目に移る前に、君たちにもう1つあることを教えよう」
「あること?」
「昔の記録だ。俺もかつてここ帝都第二魔法学校の生徒だった。だから当時の記録も残されている。……リチャード・ファミリア無属性、スコア154。それが俺の最初の測定スコアだ」
全体がざわつく。最初の測定スコアということはリチャード先生もまた同じように最初に測定をしたということである。そしてそのスコアは今測定した誰よりも低いのだ。
リチャード先生が最後にこれを言おうとしていた理由が何となく分かる。要するにエールなのだ。今のリチャード先生を凄いと思うのならば、同じように成長しろと言っているのだ。
しかし……。
ネロはリチャード先生をじっと見つめていた。赤い髪は短く切り揃えられている。他の色が混じっているようには見えないから魔力の属性は火属性と思われる。……。
何となく、ネロは直接質問するのを避けた。その代わりに信用できるものに聞くことにした。こういう場合誰にも聞かれないから念話は便利だ。
『ヴァン、無属性魔法ってなんだ?』
『無属性は補助魔法に多い属性ですね。……少なくとも私の知る限り、攻撃魔法で無属性は人間に扱えるものではないです』
『つまり……、戦闘スタイルで言うなら魔剣士とか魔闘士ってこと?』
『そうなりますね。魔法使いでないことは確かです。……恐らくですが、最初の測定というのは筋力を高めるグロウアップを使った上で殴っただけと私は考えますね』
話が早い。まるでどこからか見ていたかのような口調である。そしてヴァンの予想は俺の予想と大体同じだ。多分だがリチャード先生の最初の測定は、補助魔法をかけて単純に殴っただけである。それでスコア154は外れ値もいいところだ。
そんなネロの結論は誰にも気付かれることはなかった。俺も私もと盛り上がり2回目の測定も終わったのである。そして昼食休憩があり、ネロはとある部屋に来ていた。
測定結果をもとに組まれたパーティのメンバーとここで顔合わせをするらしい。どんな人なんだろう? 少しの不安と大きな楽しみを感じネロは顔のニヤつきを抑えられないでいた。




