槍で貫け
ネロは収納魔法から杖を取り出した。入学式を迎えるにあたりつい昨日新調したばかりである。……もっともそれに気付くものはいない。まあ気付かれなくてもいいのだ。結局こういうものは自分のモチベーションが上がればいいのである。
「……ダークジャベリン」
新品の杖をマジックドールめがけて振り抜く。クロが頭の上から嬉しそうに飛び出す。具現化した闇の槍が伸びやかに弧を描いた。距離を不安に思ったが、クロには問題ないようだ。派手に土煙が上がる景色を見てクロは嬉しそうに微笑んでいた。
「ネロ・プリズマン闇属性、スコア422」
歓声に似た声が上がる。400以上のスコアは2人目。そして今までの最高記録である。ここから先はネロの記録が目標になるのだ。
「僕の記録をちゃんと超えてくるなんてさすがだねぇ」
そんなことを言いながらニコニコ微笑んで近づいてきた。チャールズ・アンダーソンである。彼はネロの少し前に測定を行い、光属性の中級魔法ホーリーライトでスコア414を出していた。チャールズは君の方が優れていると言いたげな表情だ。
とはいえどうすればスコアが大きく稼げるかなんて知らないし、この記録は偶然だとネロは思っていた。それにまだ測定は1回目。2回目なら皆の記録ももっと伸びるだろう。
「……うーん、皆んなはそうかもしれないけど僕は多分記録は出ないんじゃないかな?」
「へぇ? そりゃまたどうしてだ?」
「それはまだ言わない。僕は僕なりに自己紹介をしようと思ってね」
そう言ってチャールズはニヤリと笑ってどこかへ行ってしまった。僕は僕なりにという言葉がやけに頭の中に残った。いったい俺は俺なりの自己紹介ができているんだろうか? ネロはちょっとだけ不安だった。
リチャード先生の指示は一撃で最大威力の攻撃を放つこと、である。だがダークジャベリンはネロにとって最大威力の攻撃ではない。どんな攻撃ができるか知らないが、どう考えてもヴァンに任せるのが最大威力の攻撃である。
だがそれをネロはしない。何となく秘密にした方が良さそうな気がしたのだ。これまでの記録やネロ自身の記録を考えれば、ヴァンの攻撃は軽く上回る。下手すると桁が上がってしまう。これでは悪目立ちしすぎる。ヴァンをこうした場で使うのは少なくとも一日中ずっと召喚できるようになってからだ。ネロはそう考えていた。
というのを踏まえて、ネロは考えてみた。自分なりの自己紹介をするとしたら何をすればいいか。しかし考えてもその結論は中々出てこなかったのである。
「……何を考えてるの?」
不意に声が聞こえた。振り返るとそこにはエレクがいた。エレクは雷属性の中級魔法プラズマブレイドでスコア398を出していた。これは今のところ3番目に高い数値である。……そうだ。エレクに聞いてみよう。
「エレクはさ、2回目どうするつもりなんだ?」
「どうするって?」
「いや、……何か自分なりに工夫が出来たらなって思ってさ」
「あぁ、なるほどね」
エレクはそのことかと軽く頷いてみせた。どうやら既に何か思いついているようである。やはり皆2回目は1回目と違う何かをするんだろうか。ネロは顔をちょっとだけしかめた。
「……あ、マーサの番だよ」
いつのまにかマーサまで番号が回ってきたらしい。ネロは一応とばかりに顔を向けた。マーサは大分緊張しているようだ。近くの人が宥めようとしているが、ネロたちは動かない。この状態の彼女には何を言っても無駄である。
「遠距離と近距離、どちらにする?」
「……え、遠距離!」
「よし、それじゃあ頑張って」
その様子を見てネロとエレクは顔を見合わせた。……ちょっと危険かもしれない。マーサは緊張した顔のまま杖を握りしめている。……中々魔法を撃たない。「早くしろよ」そんな心ない声が聞こえた。「あ、まずい」思わずネロはそう呟いた。
「……エ、エナジーボム!」
高く掲げられた杖の先から火属性の中級魔法が放たれた。マーサは緊張のあまりマジックドールに狙いを合わせるのを忘れてしまっており、なおかつ放ったのは真上。行き場のないエネルギーはマーサの頭上2メートルで爆ぜた。
エナジーボムは爆破を伴う魔法である。すべて当たるのは難しい代わりに、回避が難しい癖の強い魔法なのである。今回はそれが仇となった。拡散された火属性の弾が四方八方にばら撒かれる。ネロはとっさに収納魔法から杖を取り出し構えた。……間に合うか?
土煙が晴れ、真っ青になっているマーサの顔が見えた。魔障壁の展開はどうにか間に合っていた。ただ、これで防げていたかは分からない。なにせ魔障壁の外側にもう一枚魔障壁があったのだ。ネロのものよりもずっと厚く強固である。
「……ふぅ。さて、怪我をしたものはいないな?」
まるで何事もなかったかのようにリチャード先生は言った。どうやらリチャード先生は全員分の魔障壁を展開したようである。




