最初の授業
チャールズの視線はネロ、……というよりクロに向いている。ネロは視線を少しだけ下に落とす。チャールズの手元には白い毛皮のようなものが見える。……なるほど、同業のようだ。
「……そうだな。俺も魔物使いだ」
「そりゃあ良かった! 魔物を連れてる人が少なそうに思えたから心配になっててね。とにかく隣が魔物使いで良かったよ」
まあ気持ちは分からなくもない。魔物使いであるというだけでひとつの共通点となる。同じ戦闘スタイルなら話も弾むだろう。
ちなみにこのクラスに魔物使いは何人いるんだろう? 索敵魔法を使って少し探ってみる。魔物の反応が10個ほど点在している。まだ全員揃ってはいないが、恐らくその数だけこのクラスには魔物使いがいると考えていい。……別に少なくはないかな。こんなものだろう。
……おや、机に近づく人の反応がひとり。誰だろう? ネロが顔を上げると女の子がまっすぐ歩いてきていた。彼女はまっすぐネロたちが座る机まで歩くと。どさっという音と共にチャールズの左隣に座った。
名簿によればこの子の名前は確かシェリー・エイジア。綺麗な長い赤い髪と大きく無骨な武器が目に止まる。当然だが魔物は連れていない。武器の見た目からして魔剣使いだ。まあ武器は剣ではないのだが。
「……斧?」
「だったら何? 魔物使いじゃなくて悪かったわね」
どうやら先程の会話が聞こえていたらしい。初対面だがいきなり機嫌を悪くさせてしまったようだ。……まあ俺は同意してないし、大丈夫だろ。
勝手にそう考えたネロは特に弁解はせず黙っていることにしたのである。もっとも同意こそしてないがネロは否定もしていない。そのためネロにも同じく苛立っていることにはまだ気づいていない。
入学式を終え、生徒全員が教室に揃った。楽しみでしょうがない人がいれば、不安で小さくなっている人もいる。大多数は前者であり、もう仲良くなったのか周囲の人と喋り始め、全体がやや騒がしい。
その時チャイムが鳴った。瞬間教室が静かになる。大人が1人入ってきた。赤い髪を短く切り揃えられている。スーツを着ているが、その上からでも分かるくらい筋肉質だ。この人がこのクラスの担任の先生であることは入学式の時点でもう分かっていた。
「改めて自己紹介だ。俺の名前はリチャード・ファミリア、このクラスの担任だ。これからよろしく。まずはさっそく自己紹介から始めよう。アルフレッドから順番に名前と属性、それから戦闘スタイルを皆に教えてくれ」
一番前の左端に座る赤髪の男の子が立ち上がる。名前と属性、戦闘スタイルを言うだけだからそれほど時間はかからない。15分ほどで全員の自己紹介は終わった。
「ありがとう。ちなみに今日は授業という授業はしない。入学してからやるべきことはいっぱいだからな。さて、まず君たちにはこれから大事なことをする」
「……大事なこと?」
「あぁ。魔導士として活動するのにとても大事なこと。パーティを組んでもらう」
あちこちで「え?」という声が聞こえてきた。当然ネロも同じ。魔導士ギルドでパーティ申請は学校で行うと聞いたが、まさかこんなに早いとは思っていなかった。
「静かに。話を始める前に皆に聞くが、もう既に魔導士ギルドへの登録を済ませたものはいるか?」
リチャード先生の声に恐る恐る教室のおよそ半数が手を挙げた。ネロは手を挙げる。そしてそれとなく周りの様子を伺う。……良かった。エレクもマーサも手を挙げていた。少しだけ心配だったのだ。
「素晴らしい。まだ登録していないものも今日の授業が終わったらすぐ登録しに行くといい。さて、既に登録したならパーティが何人編成か知っているな。ネロ、言ってみろ」
「……4人」
「そう、パーティは4人編成となる。そしてパーティの組み方には大きく2種類ある。スクエアフォーメーションとダイヤフォーメーションだ」
リチャード先生はそう言いながら黒板に大きく隊形を書き始めた。大きく正方形とひし形を書き、上下にそれぞれ前、後と書いたところでリチャード先生はこちらを向いた。
「パーティには前衛と中衛、後衛とに分かれている。人によって違うこともあるが大体魔剣使いは前衛、魔拳士は中衛、魔法使いは後衛であることが多い。そして魔物使いはどこでもだ。先程言ったスクエアフォーメーションは前2後2の隊形、ダイヤフォーメーションは前1後1、中衛に2枚の隊形になる」
リチャード先生はこちらを向きながら淡々と説明していった。ネロは先生の話を聞き逃さぬよう集中して聞いている。だが、クラスの大半はそうではない。あちこちで喋り声が聞こえる。皆集中して話を聞けない訳ではない。不安なのだ。
「……とはいえ、君たちは魔導士になったばかり。半数がまだ登録すらしていない。魔導士にとってパーティは最も重要事項。パーティはバランスを見て学校が割り振ることになっている」
明らかな安堵の声がそこかしこで漏れた。ネロは既にギルドの登録を終えており、パーティの重要性を理解しているつもりだ。登録済みの他の生徒も似たようなものだろう。だから安堵したのだ。
「今から自己紹介その2を行う。グラウンドに出る準備をしなさい」
「グラウンド?」
「何をするんだ?」
「実技試験さ」




