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入学までの準備


 突然のその問いにネロは反応に困った。いきなり、なぜそのことを聞いてくるのか分からなかったからだ。ヨードルは魔導士ギルドの講師。魔法学校とは関係がない人間である。

 とはいえ、答えない理由はない。真意は分からないが、隠しておくことでないのは確かだ。ええと、入学式の日は……。


「3日後……、かな?」

「ならまだ時間は結構あるな」

「時間があると何があるんだ?」

「決まっている。練習をするんだよ。固有魔法は普通の魔法よりも発動条件なんかに癖があることが多い。だから固有魔法を使いこなすために練習をするんだ。入学してからだと中々自分の時間が取れなかったりするからな」


 ヨードルのその言葉にネロはにっこり笑って頷いた。これはヨードルからの助言だ。こういう助言はありがたく聞いておくべきだ。ネロはヨードルの言う通り固有魔法を練習しておくことに決めた。

 ……しかし、何から練習すればいいんだ? 


「ちなみにどの魔物がどの固有魔法を持つとかって分かってたりするのか?」

「大抵の魔物は判明済みだな」


 その返答にほっと胸を撫で下ろす。固有魔法が何か分からずに練習というのはかなり難しい話だ。続けてネロはヨードルにクロの固有魔法について聞こうとした。……だが、ヨードルは首を横に振ったのである。


「その質問には答えられないな」

「え? ……どうして?」

「魔法は自由なものだからだよ。何も最初から枠にはめ込む必要はない。……昔の人が必ずしも正解とも限らないしね」

「……なるほど」

「だから……、そうだな。名前くらいなら良いだろう。バッドバットの固有魔法は『マナドレイン』だ。ここから先は自分で調べて自分なりに解釈してみろ」

「ありがとう。何とか自分なりにやってみる」

「その意気だ。また何か聞きたいことがあったらいつでも来い。ネロなら大歓迎だよ」


 聞きたいことはこれで全て聞けた。ネロはにこやかに笑ってヨードルの部屋を出た。キダルが待っているのが見える。待っている間暇だったのか少し眠そうだ。そんなに暇なら一緒に来ればいいのにとこっそり心の中で毒づく。大丈夫、ヴァンやクロ以外には伝わってないさ。


「待たせたな」

「構わないよ。それじゃあ寮に戻ろうか」

「その前に、……書庫に行ってもいいか?」

「書庫? どうして?」

「固有魔法について調べたいんだ」


 ネロのその返答にキダルは微笑んで頷いた。どこか納得したように見える。多分ネロのその言い方からヨードルに何の話をしに行ったのかを察したのだろう。


「そういうことなら案内するよ。それに固有魔法なら練習相手がいるんじゃない?」

「……まあ、そうだな」

「手伝うよ。練習は人がいた方が良いだろ?」


 そう言ってキダルはにっこりと笑った。よく笑う男だ。キダルは長い髪で目を覆っている。だがそれを感じさせないくらいよく笑う。出会って2日しか経っていないがネロはこの同室がこの男であることにありがたさを感じた。……口には決して出さないが。


「……ありがとう、助かる」

「それじゃあ書庫へ行こうか」


 ネロはキダルに連れられ書庫へ向かった。帝都の書庫は予想以上の凄まじい蔵書の量である。時に職員に聞きながらネロは資料を何冊も読み漁った。その後はキダルを相手に練習である。時間はあっという間に過ぎていった。




 ……そして3日の月日が流れた。この日はネロたちの入学式である。

 学長の長くありがたい話を聞き、新入生代表だというやけに偉そうな奴の暑苦しい演説を聞き、無事に式典を終えたネロは自教室の前に来ていた。隣にはマーサもエレクもいる。偶然か必然か、同じ教室なのだという。教室の扉には1-Bと書いたカードがぶら下がっていた。


「まあ予想はしてたけど、やっぱり同じクラスだったね」

「クラス分けはどう決めてるんだ?」

「あくまで噂だけど、魔導士としての能力順って聞いたよ。なんでも学校は既に僕らの力を知っているとか」


 あぁ、多分あれのことだな。ネロは魔導士ギルドでの一幕を思い出していた。魔力マナで人を識別出来るのだから魔導士としての能力も知っていておかしくないだろう。

 ……まあ、それだったらAの評価が欲しかったけどな。


 声には出さずにネロは教室に入るため扉を横に引いた。それなりに広い教室、一番前には大きな黒板と教卓、そして15組の3人掛けの机と椅子が並んでいる。もう座っている生徒が何人か。

 教卓に名簿が見えるように置いてある。ネロ・プリズマンの名前を探す。……なるほど、どうやらネロは一番前の列のようだ。ネロは軽く会釈をしながら教卓目の前の真ん中の机に向かう。机には既に真ん中に白髪の少年がひとり座っていた。名簿の名前は確か……。


「ええと、チャールズ・アンダーソンで合ってるか?」

「あぁ、僕はチャールズ・アンダーソンだよ。……お! もしかしてこの机の人かい? 右かな? 左かな?」

「右だな」

「それじゃあ君は、ネロ・プリズマンだね! よろしく!」


 チャールズはネロの目をしっかりと見てにっこり笑い手を差し出した。もちろんネロもそれにならって手を差し出す。初対面だが仲良くできそうだ。チャールズの視線が不意に上に向いた。


「……ところで君も魔物使いかい?」


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