索敵魔法
索敵魔法。使用者を中心とした円状の範囲内において、存在している魔物の座標を感知するものである。効果範囲は消費する魔力の量によって自由自在に操作することができる。また予め魔物を登録しておくことが可能であり、既に知っている情報を省くこともできる。
魔導士は行動のほとんどを魔力によってまかなう。無駄な戦闘はなるべく避けたいのが本音である。そのため少々の魔力を消費したとしても、魔物の座標を感知できる探索魔法はありがたい存在なのである。
これはネロが帝都に向かう飛行船の中で読んだ雑誌の汎用魔法についての特集で書かれていた探索魔法の一節である。ネロは到着まで暇だったこともあり読み込んでいたのだ。
知ってそうだったのでロージアに教えてもらおうと思っていたが、タイミングが合わず断念。まさに誰に聞こうか考えていたところである。教えてもらえるのは都合がいい。ネロは静かに頷いてヨードルのその言葉を受け入れた。
……しかし、他の人はどうやら違うようだ。何とも微妙な空気が辺りに流れていた。
「……索敵魔法ですか?」
「そうだ。どうかしたか?」
「あの……、さすがに索敵魔法は習得しです。よほどのことがない限り習得してない魔導士はいないかと」
おずおずと、だが確かな口調でひとりが静かに抗議の声を上げた。ネロが周りの様子をうかがうと、全員が似たような表情である。どうやら習得していないのはネロだけのようである。恥ずかしいが、名乗り出るしか無さそうだ。……なに、恥ずかしがっていつまでもやり方が分からない方が恥ずかしいに決まっている。
「……俺はまだ習得してない」
「うっそマジ?」
先程抗議した少年が思わず大きな声でそう言った。習得してないものはしてないのだ。そんなに驚かれても俺だって困る。
「ふむ、ほとんどの人が既に習得していると。だったら優先度の高い魔法という問いの答えにふさわしいんじゃないかい?」
「……まあ、確かに」
「せっかく習得したのに有効活用してやらんのは少しばかり残念だ」
確かに習得の優先度が高い魔法こそ既に習得している可能性は高い。ネロを除いた全員が習得しているのは疑う余地なしの証明とも言えよう。
しかし有効活用しないとはどういう意味だろう。
「魔法の習得にはいくつかやり方があるが、時間がかかるから今回はお手軽にこれでやるとしよう」
そう言いながらヨードルはどこからか一冊の本を取り出した。取り出したのは収納魔法からだろうが、収納魔法を使ったようには全く見えなかった。熟練の魔導士なら収納魔法をここまで手際よく使いこなせるのだろうか。そんなことを考えながら差し出された本をネロは手に取った。
本の表紙にはもちろん探索魔法と書かれている。本を使った習得は初めてではない。直近だとダークジャベリンだったか。つい数日前の話だ。
魔法が習得できる本は魔導書とも呼ばれる。本人がその魔法の適性を持っていること、が条件にはなるが読むだけで魔法が習得できる優れものだ。今回は全員に適性がある補助魔法だから問題なく習得できた。
「お、習得できたか。それじゃあお試しだ。まずはお前を中心に1メートルくらいの範囲で発動してみろ」
言われるがまま索敵魔法を使う。1メートルは範囲としてはかなり狭い。せいぜいネロとクロぐらいしか入らない。……発動してすぐはぼやけていたが、すぐに定まった。人型のシルエットとコウモリに似たシルエットがひとつずつ。なるほど、自分とクロだな。この範囲なら問題なく使えているようだ。人間が青色、魔物が赤色の線で表されてる。簡単でいいね。
「次は範囲を広くする。この部屋全体だ。……そうだな、今度はお前を中心に8メートルくらいだ」
範囲を広くするのもまた簡単である。さっきまではっきり見えていたものを崩してもっと広い範囲で適用させる。やり方を知っている分スムーズだ。ええと、青いシルエットが7つに赤色が2つ。つまりこの部屋には俺を含めて7人の人と、魔物が2体いるんだな。……ん? 2体?
赤と青を見間違うことはない。目で見れば何も見えないが、索敵魔法でははっきりとシルエットが見える。間違いなくあれは魔物だ。あのシルエット確か図鑑で見たな。名前は……。
「……バニッシュ?」
ネロは恐る恐る魔物の名前を口にした。近くの少年たちは怪訝な表情である。そしてヨードルは目を丸くして口角を上げた。なんだかすごく楽しそうだ。
「ほう! よく知ってるな。そうだ。この部屋には最初からオレの魔物がお前たちをずっと見ていた。こんな風にな」
ヨードルは目の前の机に手を広げた。その瞬間今の今まで決して見えていなかった魔物の姿が現れたのである。ところどころで悲鳴が漏れた。ネロは悲鳴こそ上げなかったが、しばらく何も言葉にできなかった。
魔物はネロを見てニヤリと笑った。その手には先程読み終わって目の前の机に置いたはずの本があったのだ。……いつのまにか彼が回収していたようだ。




