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五つの問答


 以下の問答について自身の考えを述べよ。なお、すべての問答において、自身の魔力マナ属性と得意魔法を絡めて考えることとする。


 森の中で低級の魔物に遭遇した。その魔物はゴブリンメイジとする。この時あなたが取るべき行動を述べよ。

 森の中で人の叫び声のようなものが聞こえた。あなたが魔力マナを温存できており、戦闘準備が整っていたとする。この時あなたが取るべき行動を述べよ。

 魔導士ではない人間が魔物に襲われているのを発見した。あなたの魔力マナが残り少なくこの魔物を討伐できるかは分からない。この時あなたが取るべき行動を述べよ。

 帝都に魔物が複数侵入したという知らせがあった。目の前には自分でも討伐できそうな魔物が1体見える。この時あなたが取るべき行動を述べよ。

 帝都に魔物が複数侵入したという知らせがあった。目の前には自分よりも強い魔物が1体見える。この時あなたが取るべき行動を述べよ。


 ……何これ?

 ネロが紙をすべて見終わっての最初の感想はそれであった。そもそも書いてあることが若干ネロには難しいのである。かつてよく聞いた長老ジジイが時々使う難しい言い回しに似ていた。もっと簡単に書けよ。ネロはひとり心の中で毒づいた。

 これが認証演習だとするのであれば、マーサやエレクも受けるはずだ。周りを見渡してもそこに文句を言っている人は見られない。……恐らくだが、2人も同じように黙って取り組むだろう。ネロはひとつだけ大袈裟にため息をついて手近のペンを握りしめた。


 ひとまず一通り答えを出すことにしよう。5問全てに共通しているのは、自分の魔力マナの属性と得意魔法に絡めて考えるという点と、取るべき行動が問われているという点だ。

 しかし取るべき行動というのはどういう意味で問われているのだろう? パッと思い浮かぶのは戦うか逃げるかの選択肢だ。……それ以外にあるのか? まったく浮かばないが……。


『ええ、倒しに行くべきか、逃げるべきかを問われていますね。……まあ、主様の考えで大枠正しいでしょう』


 頭の中でそんな声が響く。聞き覚えのある声に思わず振り返る。当然だが後ろには誰もいない。ネロは恐る恐る頭の上を確認した。クロが気持ちよさそうに目をつぶっている。……空耳か?


『いいえ、空耳ではありません。勝手ながら念話を送らせてもらいました』


 ……なるほど、やはり気のせいじゃあないか。この声の主はヴァンだな。確か前もこんなことがあったっけ? 念話ってのはよくわからないけど、つまり何らかの方法で思考を送ってくれていると。……合ってる?


『ええ、そういうことです』


 それで合ってるのね。ちなみにさっき大枠がって言ったのはどういう意味なの?


『そうですねぇ……。主様の考えを補足するならば、2点ほど。まず、戦う、逃げるという2つの選択肢に助けを呼ぶが追加できるかと思われます。そしてもう1点として、見えないものの可能性をどれだけ考えるかというものがあります。それらの点以外では主様の考え通りかと思います』


 ……思っているよりもしっかり指摘してきたな。大枠と言ったのはヴァンの優しさか。確かにヴァンの言う通りかもしれない。

 それじゃあ改めて考えてみよう。助けを呼ぶというのはまあ、ありだ。戦うにしても逃げるにしても呼べるのなら助けを呼んだ方がずっといい。

 ……というか、召喚魔法って実質助けを呼ぶみたいなものだな。それじゃあとりあえず全部に得意魔法として召喚魔法を挙げておくか。

 それから見えないものの可能性についてだな。これはつまり今見えている敵以外にも敵がいる可能性ってことだろ? ……うーん、全部そうじゃない? いっそキリがないから見えている敵だけっていう前提で考えるか。


 ネロはヴァンの助言をもとにひとまずの自分の考えを捻り出すと、それを紙に書いてみた。そう間違ってはないだろうと自分に言い聞かせる。

 ネロはひとり長い息を吐いた。こういう問答はあまり経験がない。疲れたのかな。こっそり周りの様子を伺うと、まだ何人か取り組んでいるようだ。ネロは全員が書き上げる間ぼんやりと自分の書いた紙を見ていた。


 数分後、全員が書き上げたらしい。ヨードルは全員に呼びかけ紙をすべて回収した。……そういえば名前を書く場所が無かったな。ぼんやりとしたままネロはヨードルが集めた紙の束を見てそう思った。


「……ふむ、思っているより優秀だな。既に解説がほとんど必要ないものがいる。……逆にみっちり解説をしてやらなければならん奴もいる」


 そういうとヨードルはじろりとネロを睨みつけた。そう間違ったことは書いた覚えがないが、何か気に障ったのだろうか?


「……この紙に書いた問答には明確な答えが存在する。そのことに違和感を抱くものがいるか? いたら手を挙げろ」


 ヨードルはそう言って全員を見渡す。その表情は威圧感を帯び、反論をひとつも許さないという雰囲気だ。とはいえ、違和感をひとつも抱いていないとは言いがたい。答えが存在しないから頑張って何とか捻り出したのだ。

 ひとりが手を挙げたのを契機に、ネロを含め全員が手を挙げた。それを見てヨードルは満足そうに頷く。よく分からない人だ。ネロがそう思ったその時、またヨードルは口を開いた。


「やはり優秀だな。そう、この問答はすべて答えがないものばかりだ。君たちの考えはその点で正しい」

「……え?」

「だが私の言うことも正しい。君たちはまだ五級ですらない、ともすると魔物との戦闘すらしたことのない新米の魔導士だ。よって答えは……、とにかく逃げるだ」

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