認定演習
「いつもながらびっくりするよねぇ」
「……これどういう理屈なんだ?」
「説明が難しいな。……簡単に言うと、魔力はそれぞれ固有のもの。ひとりとして完全に同じな人は存在しない。それ故に魔力から人を識別することも可能なんだよ」
なるほど、何となくだが理屈が理解できた。要するに手の中にあるこのちっぽけなカードは注がれた魔力が誰のものかを識別したということだ。
賞賛と気味悪さが混じった複雑な表情を浮かべていると、職員が戻ってきた。照合は終わったようだ。
「お待たせいたしました。照合が完了いたしましたので正式にギルドカードを発行いたします。先程のカードをいただけますでしょうか?」
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
職員はカードを手に取ると手近にあった端末を操作した。小さな魔法陣が浮かび上がる。……数秒後、魔法陣が消えた後で職員はカードをネロに手渡した。表面の右下に小さな字で、魔導士ギルド認証済と記されていた。
「これでネロは認証なしではあるけど正真正銘魔導士になったね」
魔法が使えれば魔導士ではある。そのためネロはギルドに認証されなかろうと、魔導士ではある。
だがどうだろう。公的機関である魔導士ギルドから改めて魔導士になったと言われれば、それはそれで嬉しいのだ。ネロは渡されたギルドカードを見る。白いまっさらなカードだが、少しだけ誇らしい。
「……さて、この流れで五級の認定演習も受けようかと思っているんです。今日の午前は魔法学概論がありますよね?」
「ええ、本日開講予定でございます。第五演習場にて十数分後になりますね」
認定演習? 魔法学ガイロン? 何の話だ?
「ちなみに担当講師が誰か聞いても?」
「本日の魔法学概論はヨードル・フリードが担当いたします」
「お、ヨードルさんか。ありがとうございます。それじゃあ行こうか」
困惑するネロをよそにどんどん話は進んでいく。戸惑うネロを気にせず、キダルは職員に礼を言うとどこかへ歩き始めた。仕方ない、ついていくしかないようだ。ネロは眉をひそめながらもキダルについていくことにした。
やがてある部屋の前でキダルは立ち止まった。第五演習場とやけにあっさりとした字体で書かれている。魔法学ガイロンというのはここであるようだ。
「……その、認定演習? っていうのは何?」
「ギルドが昇級資格のひとつとして設定している演習のことだよ。五級魔導士なら魔法学概論がそれに当たる。まあ魔法学校の授業みたいなものさ。ヨードルさんは……、まあちょっとおっかない人だけど、いい人だから安心しなよ」
ちょっとおっかない人……? その言葉にネロはますます眉をひそめた。キダルはそれを見てにこりと笑うと勢いよく扉を開けた。長い机がたくさん並んでいる。そこには既に何人か座っていた。部屋の中は張りつめた空気が満たされている。何となく寒気を感じたが、多分気のせいだろう。
中にいた数人が扉の音に反応してか顔を上げこちらを振り返る。こちらを一瞥してすぐに向き直った。大体ネロと同い年くらいに見える。恐らく認定演習をこれから受ける人たちはネロと同じく魔法学校の新入生が多いのだろう。ここにいる全員がそう見えた。……ひとり極端に子供っぽいものもいたが。
ネロたちから見て一番奥、こちら向きで座っている厳つめの男がピクリと眉を上げた。見た目はかなりおっかない。この人がそのヨードルさんなのだろうか。
「ほう、珍しい。キダルじゃないか。概論からまたやり直しに来たのか?」
「まあそれもいいんですが、今日は別件で。後輩を連れてきました」
やはりこの人がヨードルさんのようだ。キダルは机の間をスルスルと進んでいく。ネロもその後を追う。机に座っている人たちは何か紙を熱心に見ているように見える。何の紙だろう? ネロは少し首を傾げた。
首を傾げたまま前を向くとキダルがこちらを振り返っていた。紙に気を取られているうちにいつの間にか差が開いていたらしい。慌ててネロもヨードルのもとへ進んだ。
「よく来た。オレの名前はヨードル・フリード。ここ魔導士ギルドで魔法学概論を担当している。そろそろ始めるからこの紙を受け取ったら好きな席に座れ」
差し出された紙を受け取る。一番上に魔法学概論と書かれていた。ガイロンというのはこんな字を書くのか。まあ字が分かったところで今は分からないけどね。見たところさっき見た紙と同じ。ここにいる人たちは全てこれをしているのだろう。
外で待ってるから頑張ってね、の言葉と共にキダルは去っていった。やはり一緒には受ける気がないようだ。何となく寂しい気分だ。
そろそろ始まるということでネロは手近な机に座る。横にひとり座っていたので一応会釈だけしておく。向こうもそれに気付いたのか会釈が返ってきた。何となくいい気分だ。
「さて、そろそろ魔法学概論を始めようか。改めて担当講師のヨードル・フリードだ。よろしく頼む。魔法学と言ってはいるが、今回の話は概論。魔導士が必ず知っておくべき基本的な心構えや知識の話だ。基本だからと言って馬鹿にはできん。魔導士は危険を伴う。いざ実戦の場に立ってそんなの知りませんでしたなんていう馬鹿な真似はしちゃあいけない。死にたいのなら別だがな」
淀みない言葉と共にヨードルは部屋の中にいる全員を見渡した。視線が合う。まるで真剣を突きつけられたかのような鋭い視線。ネロは一瞬戸惑いの表情を見せる。だがそれも一瞬のこと。知ることの大切さをネロはもう知っている。ネロはヨードルの鋭い視線に真剣な表情で応えた。
「よし、ではまず手始めに先程渡した紙を取り組んでもらう。よく読んで理解して取り組んでくれ」
机に置いてある備え付けの筆記具を手に取るとネロはヨードルからもらった紙を改めて見始めた。……そして眉をひそめた。そこにはたった5問の問答しか書かれていなかったのだ。




